雷蔵の大菩薩峠 | 懐古趣味親爺のブログ

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幼少期(1950年代)から成人期(1970年代)までの私の記憶に残っているものを網羅。

中里介山の未完の大長編『大菩薩峠』は5度映画化されているのですが、内容的には内田吐夢の『大菩薩峠(三部作)』よりは劣るものの主人公の机龍之助のキャラにピッタシだったと云われているのが、市川雷蔵が主演した『大菩薩峠(三部作)』です。

『大菩薩峠』(1960年・大映/監督:三隈研次)

大菩薩峠で老巡礼を斬った机龍之助(市川雷蔵)が奉納試合で宇津木文之丞(丹羽又三郎)を殺害。文之丞の妻・お浜(中村玉緒)を犯して妻となし、江戸で暮らします。島田虎之助(島田正吾)の道場で修行している文之丞の弟・兵馬(本郷功次郎)からの果たし状を見たお浜は、龍之助をとめようとして殺され、龍之助は芹沢鴨(根上淳)に誘われて京へ。兵馬も近藤勇(菅原謙二)と京へ。京・島原の茶屋で龍之助は盗賊の七兵衛(見明凡太郎)に助けられた老巡礼の孫・お松(山本富士子)と遭遇。老巡礼の鈴の音や、お浜の幻を見て狂気となってさまよい出たところへ兵馬が現れ、龍之助に刃をむけます。

『大菩薩峠・竜神の巻』(1960年/監督:三隈研次)

前作のラストで、狂気となってさまよっている机龍之助に刃をむけた宇津木兵馬でしたが手傷を負って盗賊の七兵衛とお松に助けられます。大和路で正気に戻った龍之助はお浜と瓜二つのお豊(中村玉緒の二役)と遭遇。ひとときの安らぎを得ますが、横恋慕している金蔵(片山明彦)がお豊を拉致。龍之助はお豊を追いかけて、ひょんなことから天誅組に加わります。天誅組は敗れ、残党狩りの火薬で盲目となった龍之助はお豊と再会。お豊の亭主となっていた金蔵が嫉妬して龍之助を襲いますが、逆に斬られて殺されます。そこへ、龍之助を追っていた兵馬が現れて対決。龍之助が足を踏み外して崖から落ちたところでエンドです。

高評価だった内田吐夢の『大菩薩峠』の1年半後の公開で、監督の三隈研次は台本を渡されたとき、「吐夢さんが去年、ええシャシン撮ったばかりやないか。また作ったって客が来ない」と言いますが、「雷蔵が乗り気だから、ぜひ撮ってくれ」と言われ、引き受けたとのこと。

雷蔵の殺陣は、繊細で鋭敏なところがあるのですが、迫力は今イチ。だけど、雷蔵は当時げっそり痩せており、内面から虚無感が滲み出ていてグッド。これが、後の眠狂四郎へ繋がっていくんですな。中村玉緒は当時21歳、お浜とお豊の二役をするにはミスキャストと思われたのですが、業の深い女を妖艶に演じきって、それまでの娘やお嬢様的な役から脱皮します。龍之助の父親役で笠智衆が出演していますが、小津安二郎の映画やそれ以後の映画で見せているような型にはまった演技でなく、ごく自然な演技を見せていましたよ。吐夢版『大菩薩峠』では大河内伝次郎の島田虎之助が新懲組相手の迫力ある殺陣を見せていましたが、島田正吾も大河内ほどの迫力はないものの剣豪らしい風格のある殺陣を見せています。お松役の山本富士子は平凡。

『大菩薩峠・完結篇』(1961年/監督:森一生)

前作のラストで崖から落ちた机龍之助(市川雷蔵)は、お豊(中村玉緒)に助けられて逃走しますが、お豊は病に侵されて自害。龍之助は生け花の師匠・お絹(阿井美千子)に惚れられ、江戸に向かう途中で、お絹に横恋慕している盗賊の百蔵(小林勝彦)に身延山中に誘い込まれ、百蔵の腕を斬り落とすも崖から落ちて昏倒。薬売りのお徳(矢島ひろ子)に救われ、お徳の息子とふれあい、自分の息子・郁太郎に想いをはせます。しかし、お徳の頼みで土地の分限者・望月家の息子を恐喝にきた神尾主膳(島田竜三)から救ったことで主膳に腕を見込まれ、主膳の屋敷へ。財産目当ての主膳に連れ込まれた名家の娘・お銀(中村玉緒の三役)は、龍之助に助けられ、一緒に脱出。顔に醜い痣のあるお銀は盲目の龍之助に心を許し、隠れ住んだのが、龍之助が殺したお浜(中村玉緒)の実家。お浜の亡霊に苦しめられ、狂ったように辻斬りを行います。一方、宇津木兵馬(本郷功次郎)は盗賊の七兵衛(見明凡太郎)と龍之助追っていますが、いつも一歩違いで会うことができません。辻斬りの噂をきいて大菩薩峠に帰ってきた兵馬は、豪雨で笛吹川が氾濫する中、龍之助と対峙。龍之助はわが子の名を呼びながら家ごと流されていくのです。

三隈研次から森一生に代わり、物語展開が端折りすぎて、人間ドラマとしての重さが全然ありません。山本富士子のスケジュールの都合だったのか、一部と二部の主要キャラである兵馬と恋に落ちるお松が、セリフで説明されるだけで登場シーンなし。竜頭蛇尾となったシリーズ完結篇で~す。