東映娯楽版1(伏見扇太郎) | 懐古趣味親爺のブログ

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幼少期(1950年代)から成人期(1970年代)までの私の記憶に残っているものを網羅。

東映娯楽版とは、上映時間が約1時間程度の添え物映画の総称。終戦直後は質・量とも不足の時代で、映画館は1本立て興行でしたが、1951年頃から2本立て興行が復活します。併映作品として制作された1時間程度の作品はSP映画(シスター・ピクチャー)と呼ばれました。東映のSP映画が他社と違っていたのは、未開拓だった少年層の観客を狙ったこと。『笛吹童子』が大当たりして、チャンバラ好きの少年たち向けの時代劇を連続もので制作していきます。「果たして主人公の運命やいかに……続く」で、少年観客を呼び込み、東映は隆盛を迎えるのです。後年私が観た作品の中からいくつか紹介。

『月笛日笛(三部作)』(1955年/監督:丸根賛太郎)

相慕って音を生じる二管の名笛・月笛日笛を所有する六条左馬頭(石井一雄)と菊太郎(伏見扇太郎)の兄弟は、都の人たちからも慕われています。加茂の宮で禁裏と武家の代表が競い馬をすることになり、左馬頭が禁裏の代表として出場。武家の代表は豊臣秀吉(原建策)の馬術指南役・鬼怒川蕭白(山口勇)で、これが悪い奴。部下の当麻(青柳竜太郎)たちを使って六条兄弟に嫌がらせ。6年前に裏切者によって滅ぼされ、行方不明の天童家の姫・春美を捜している鷹取りお雪(西条鮎子)に兄弟は救われます。競い馬の日が近づき、菊太郎を慕う鞭師の娘・お千賀(宇治みさ子)が、当麻と六条の馬番・才助(団徳磨)が密談をしているのを目撃。才助に毒を飲まされた愛馬に乗って左馬頭は競い馬に出ますが……(第一部:月下の若武者)

愛馬は狂い死して左馬頭は落馬。秀吉は再戦を左馬頭に約し、左馬頭は名馬を求めて信濃に旅をし、笛好きの美女と出会います。その美女はお雪が捜している春美(千原しのぶ)で、左馬頭は月笛を晴美が乗っている名馬・吹雪と交換。才助の悪事を知ったお千賀は、蕭白一味に捕えられます。蕭白との再戦を目指す左馬頭は当麻に吹雪を盗まれて追いかけますが、蕭白一味が左馬頭を襲撃。音の生じない日笛から兄の危難を察知した菊太郎が駆けつけますが……(第二部:白馬空を飛ぶ)

蕭白一味に襲われた左馬頭は菊太郎に救われ、陰ながら六条兄弟を見守っていた豊臣家の武将・加藤孫六(加賀邦男)が当麻から吹雪を取り返します。京に来た春美は従僕の小平次(有馬宏治)と再会。小平次から蕭白が裏切者であることを知らされ、仇を討つために蕭白の屋敷に忍び込みますが、落とし穴に落ちて捕えられ、そこにはお千賀も捕まっています。小平次は旧知の孫六に相談。春美の吹く月笛の音で、菊太郎は春美とお千賀を救い出します。孫六によって自分の悪事が秀吉にばれた蕭白は、一味とともに京から逃亡。京に戻って来たお雪から、蕭白一味が千丈ヶ原に向かっていると知らされた左馬頭と菊太郎は、蕭白を追って千丈ヶ原へ……(第三部:千丈ヶ原の激闘)

原作は吉川英治のジュビナイル小説で、主人公は正義感あふれる公家の美青年、悪役は奸智にたけた氏素性のわからぬ武士、主人公にからむのが滅亡した大名の美しき遺児と薄幸な町娘、主人公たちを陰から助ける正義の士、といった典型的な古典時代劇です。数多くの時代劇を演出した丸根賛太郎らしく、時代劇のツボを押さえた演出で大人の観賞にも耐えるものになっています。当時の少年・少女たちは、苦境に負けることなく、善をつらぬくという人間として守るべきことを教えられたので~す。

主演のひとりである石井一雄は東宝の俳優でしたが、市川右太衛門の薦めで東映に移籍。ホープとして期待されたのですが、当時の東映トップ女優・喜多川千鶴と結婚したため干されてしまい、その後は鳴かず飛ばずとなりました。

 

『夕焼け童子(二部作)』(1956年/監督:小沢茂弘)

戦国時代の出羽の国、対立する佐竹勢と出羽勢には、それぞれ“二度払い”の登舎庄五郎(吉田義夫)、“乱突受手”の大内無辺(月形龍之介)という槍の名人がいます。夕焼け童子と呼ばれる飄吉(伏見扇太郎)は魚突きの名人で、無辺に入門。“乱突受手”の極意を探ろうとした野武士の熊太郎(百々木直)をやっつけて無辺に気に入られ、次いで庄五郎に挑戦して“二度払い”の秘密を見破ります。庄五郎の一門に追われているところを、熊太郎の一味に捕まって第一部は終わり。

飄吉は熊太郎の母・いたち婆(金剛麗子)から自分が無辺の子であることを知らされます。一方、無辺も友人の宇田川大膳(原建策)からそのことを知らされ、飄吉の在所へ行って確認。庄五郎は飄吉を奪おうと野武士の山塞に乗り込みます。飄吉は、庄五郎一門と野武士たちが争っている隙に、救出にきた山彦小僧(山手宏)と脱走。庄五郎は熊太郎といたち婆を殺し、無辺の屋敷を襲いますが、駆けつけた飄吉に倒され、メデタシ、メデタシ。

敵も味方も、全て槍の殺陣というのは珍しいです。中村錦之助や東千代之介が大人向け時代劇に移り、東映娯楽版は伏見扇太郎がエースとして活躍。子供たちの間で人気急上昇中だった頃の作品で、活き活きしていて、快調、快調で~す。

 

『緑眼童子(二部作)』(1956年/監督:内出好吉)

因州新田藩主・松平忠正(明石潮)は病に伏せり、長男の松太郎は何者かに殺されます。次男の梅次郎(中野雅晴)は行方不明で、家老の諸岡勘解由(岡譲司)は側室・お光の方の子である三男・竹丸を跡目にしようとしますが、梅次郎の妹・春姫(三笠博子)は乳母のお峰(月丘千秋)と梅次郎を捜索。春姫の命を受けた侍が、お光の方の兄・黒田軍兵衛一味に殺されるのを目撃した少年・長助(本松一成)を、前島小次郎(伏見扇太郎)が軍兵衛一味から救います。勘解由と軍兵衛の悪だくみを阻止するために能面をつけた白装束の快剣士・緑眼童子が現れ……

梅次郎の居所をつきとめた侍が軍兵衛に殺され、義眼に隠された水晶玉から梅次郎が甲斐の霧隠れの里にいることがわかります。小次郎・長助・春姫・お峰が霧隠れの里に向かいますが、梅次郎は里の娘・お品(星美智子)と愛しあっており、家督を継ぐ意志がありません。お品に横恋慕している源八(徳大寺伸)が軍兵衛を利用して梅次郎を殺そうとしたことから……

悪党たちが邪魔者を殺そうとすると緑眼童子が現れ、峰打ちで相手を倒し、悪党たちは退却。その繰り返しばかりで飽きてきます。相手に反省の機会を与える為なのかもしれなせんが、最後はバッタバタと斬り倒すのですから最初から殺せば敵の数も減るのにね。お子様向けなので、内容は極めて単純で、主人公が格好良ければいいので~す。