多羅尾伴内・七つの顔の男(東映編) | 懐古趣味親爺のブログ

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幼少期(1950年代)から成人期(1970年代)までの私の記憶に残っているものを網羅。

片岡千恵蔵が大映から東映に移った関係で、多羅尾伴内シリーズも東映で製作されるようになりました。『片目の魔王』『曲馬団の魔王』『隼の魔王』『復讐の七仮面』『戦慄の七仮面』『十三の魔王』『七つの顔の男だぜ』が作られ、フィルムが現存していない『曲馬団の魔王』以外は観ることができます。

『多羅尾伴内・片目の魔王』(1953年・東映/監督:佐々木康)

筏に縛られて海上を漂っていた男(徳大寺伸)を救った多羅尾伴内は、事件の背後にある大掛かりな密輸犯罪を嗅ぎつけます。密輸船の船長(山口勇)がたむろするクラブで働く姉妹(花柳小菊と千原しのぶ)の告白で、男が妹の恋人で、姉妹の父親が隠した“片目の魔王”と呼ばれるダイヤを探していたことを知った伴内は密輸団の黒幕(進藤英太郎)とその情婦(三浦光子)に接近。殺し屋(原健策)に密輸団員が殺されていく中、伴内は事件の真相にせまります。

ラストの謎解きで、「ある時はヤクザな船員、ある時は片目の運転手、ある時はアパートの管理人、またある時は探偵・多羅尾伴内、ある時は宝石好きの紳士、そしてある時はインドの宝石鑑定人、しかして実態は正義と真実の使徒!藤村太蔵」と正体を明かすシーンを観るだけでウハウハです。

『多羅尾伴内・隼の魔王』(1955年・東映/監督:松田定次)

日本シリーズの超満員の球場でホームランを打った選手が毒針で殺されるという怪事件が発生。さらに、今度は相手チームの強打者・青池(安倍徹)が殺され、日本シリーズは3勝3敗。多羅尾伴内は、青池を買収しようとしていた野球雑誌社の社長(薄田研二)に接近。しかし、悪徳探偵(三島雅夫)一味に恋人(田代百合子)を誘拐された強打者(波島進)が彼らに脅迫されたことから……

七つの顔の男は、老医師・多羅尾伴内・片目の運転手・人夫頭・せむし男・野球コーチ・藤村太蔵に姿を変えて野球賭博団を追い詰めていきます。

ずっと昔に観た記憶(プレイ中に野球選手が殺される)があって、調べてみると55年の正月映画だったんですね。併映が『紅孔雀(第二部)』で、この作品が見たくて親に連れて行ってもらったのでした。『紅孔雀』は三部作で前年の12月27日に第一部が公開(併映は『旗本退屈男・謎の怪人屋敷』)され、1月3日に第二部、1月9日に第三部が公開されています。冬休みということで、子どもの頃は家族と正月映画をよく観に行っているんですよ。

『多羅尾伴内・復讐の七仮面』(1955年・東映/監督:松田定次)

銀行襲撃事件があいつぐ中、片目の運転手のタクシーに竜の絵に13番の数字が入ったバッチを落とした男が殺されます。男は白竜会という犯罪結社の一員だったのね。白竜会は黒覆面で顔を隠し、手下たちは誰も幹部の正体を知りません。白竜会は元伯爵・今大路(山村聰)の家を襲い、令嬢・敦子(安宅淳子)の宝石を強奪。さらに、今大路が理事長を務める相互金融副理事の岡戸(三島雅夫)の家を襲い、岡戸の妻を殺し、公金5千万円を奪います。多羅尾伴内(片岡千恵蔵)は、殺された男が妹(中原ひとみ)にあてた手紙を読み、白竜会の連絡先であるバーをつきとめますが……

加東大介が前作に続いて出演しており、マキノ家の縁によるものでしょうか。『片目の魔王』では、長門裕之(当時の芸名は沢村アキヲ)が出演していましたな。七つの顔の男は、片目の運転手・多羅尾伴内・神父・会計士・金庫破りの男・気の狂った元軍人・藤村太蔵に姿を変えて事件を解明。ラストで悪党たちが藤村太蔵めがけて拳銃を撃ちますが、防弾ガラスなので弾丸が撥ね返ります。ところが、藤村太蔵の拳銃はガラスを突き抜け、悪党たちの拳銃をはじきとばすのね。理由を聞いてアングリ。弾丸を通すところがあって、そこを狙って撃ったんだってさ。バカバカしさもここまでくれば立派なものです。

『多羅尾伴内・戦慄の七仮面』(1956年・東映/監督:松田定次&小林恒夫)

3人組の銀行強盗が捕まり、彼らが持っていた拳銃が新品だったことから、多羅尾伴内は背後に大掛かりな拳銃密輸組織があると推理します。人を殺して逃げるヤクザ男(南原宏冶)を助けた片目の運転手は、男の持っていた拳銃が拳銃密輸団から流れたものであることを発見し、すり替えるのね。男は謎の女(花柳小菊)に誘き出され、ホテルの一室で自殺に見せかけて殺されます。拳銃密輸団の黒幕(薄田研二)は、ヤクザ(柳永二郎)組織を使って男の妹(田代百合子)と母親(千石規子)を狙いますが……

七つの顔の男は、片目の運転手・多羅尾伴内・ヤクザ者・老保険勧誘員・船長・中国の大富豪・藤村太蔵に姿を変えて邪悪の根源を壊滅します。前作に続いて、この作品も題名が適当ですな。余計なことは考えず、頭を空っぽにして楽しむ作品です。

『多羅尾伴内・十三の魔王』(1958年・東映/監督:松田定次)

藤村太蔵が多羅尾伴内・片目の運転手・画家・競馬好きの紳士・老巡査・インドの魔術師に変装して麻薬王の復讐計画を暴く物語。

大観衆にわく競馬場でスタンドの屋上から女が落下します。たまたま居合わせた多羅尾伴内は、光線が女に向かって発せられたのを目撃しており、殺人と断定。女の死の現場からハイヒールが片方紛失しており、伴内は背後に犯罪組織の影を感じます。女の恋人だった騎手も殺され、女の昔の愛人・謙吉(高倉健)が指名手配され……

シリーズ初のカラー・シネスコ(総天然色・東映スコープ)作品で、出演者も豪華です。ヒロインは健さんの姉さん役の高峰三枝子。進藤英太郎、三島雅夫、神田隆と悪役も顔を揃えており、さらに、何でこんな役(仲間から間違って撃ち殺される悪党役)で出たんだろう思える志村喬ね。シリーズのテコ入れを狙ったのでしょうが、時代劇が復活してヒーローはチャンバラに移り、弾丸が絶対当たらないというバカバカしいアクションは時代にあわなくなってきました。懐かしさで観る分には結構面白いんですけどねェ。

『多羅尾伴内・七つの顔の男だぜ』(1960年・東映/監督:小沢茂弘)

藤村太蔵が多羅尾伴内・片目の運転手・船員・手品好きの紳士・中国の大富豪・せむし男に変装して令嬢誘拐事件を解決する物語。

貿易商事の社長令嬢・馬場きみ子(中原ひとみ)が誘拐され、別の事件で非常線をはっていた刑事二人が射殺されます。大沢警部(山形勲)から事件のあらましを聞いた多羅尾伴内は、刑事が密輸拳銃の銃弾で殺されたと知り、背後に大掛かりな犯罪組織があることを推理。犯人が誘拐に用いた車が発見され、片目の運転手が偽のナンバープレートを手掛かりにドライブクラブの宮下(東野英治郎)を訪問しますが、偽ナンバー作りは殺され、宮下は逃亡。夜の女ミチ(星美智子)と知りあった香港丸の船員が密輸拳銃の売り先をミチに依頼し、ミチの紹介でキャバレー“モナコ”にいるミチの弟・新吉(江原真二郎)を訪ねます。そこでは殺された刑事の娘その子(佐久間良子)が働いており、客としてきているきみ子の義母・不二子(喜多川千鶴)を目撃。新吉から紹介された星川(進藤英太郎)に拳銃を売りますが、星川の手下(安部徹と河野秋武)に銃撃されミチが殺されます。不二子を訪ねた伴内は、きみ子の婚約者で専務の清川(中山昭二)や清川の部下・山岡(阿部九洲男)の秘密を察知。手品好きのキザな紳士がモナコで働く新吉の愛人とめ子(久保菜穂子)を通じて星川に近づき、闇社会で財をなした中国の富豪を紹介。中国の富豪は息子のせむし男の嫁として三人の女性拉致を依頼。星川は、きみ子・その子・とめ子の三人を売り渡すことにしますが……

密輸・外車窃盗・裏カジノ・人身売買と、幅広い商売をしている犯罪組織なので、進藤英太郎のボスを筆頭に悪役も上記以外に富田仲次郎・稲葉義男の幹部クラスから、潮健児・関山耕司・安藤三男といったチンピラまでお馴染みの顔が揃っています。江原真二郎が裏切って味方になるものの、彼らを相手に千恵蔵御大はひとりで大銃撃戦。近所の3本立て映画館でリアルタイムで観た作品で、子どもだった私はメチャクチャ面白く感じましたが、安保騒動にゆれるこの時期、大人はさすがにこんな映画についていけなくなったのか、シリーズは終了します。

庶民に娯楽映画というものが必要とされていた戦後の暗い時代の産物ですが、今の世の中もスカッとしたものがなく、このようなバカバカしいくらい荒唐無稽な映画も良いもんです。