多羅尾伴内・七つの顔の男(大映編) | 懐古趣味親爺のブログ

懐古趣味親爺のブログ

幼少期(1950年代)から成人期(1970年代)までの私の記憶に残っているものを網羅。

戦後、時代劇が作れない時期がありました。GHQがやってきて「チャンバラは野蛮だ」なんて言ったのね。拳銃で撃ち殺す西部劇は野蛮じゃないのか、なんてことは言えない邦画界は、時代劇スターに拳銃を持たせて娯楽映画を作りました。その代表作が片岡千恵蔵主演の“多羅尾伴内”シリーズです。1947年からチャンバラ解禁になっても1960年まで全11作が作られた人気シリーズとなりました。

『七つの顔』(1946年・大映/監督:松田定次)

片岡千恵蔵の“七つの顔の男”シリーズの第1作目です。華やかなレビューの舞台から人気スターの清川みどり(轟夕起子)が誘拐されるんですな。みどりは身につけていたダイヤのネックレスを奪われて解放されるのですが、彼女の証言から都知事選に立候補していた野々宮信吾(月形龍之介)が逮捕されます。野々宮から贈られた花束が発火して楽屋が火事になり、そのドサクサでみどりが誘拐されたこと。野々宮がネックレスの所有者に借金して断られていること。野々宮の屋敷から犯人がつけていた仮面が発見されたことが証拠になるのですが、証拠がそろいすぎていることに探偵・多羅尾伴内(片岡千恵蔵)は不審を抱き……

事件が起こる前に、何故かレビューの舞台で手品師として登場し、多羅尾伴内となって押し売り的にみどりから事件解決の依頼を受けます。老警官となって留置所にいる野々宮から疑問点を訊きだし、事件の黒幕(上田吉二郎)に新聞記者となって近づき、実行犯(原健策)に傴僂の占い師となって揺さぶりをかけ、犯人の一人を片目の運転手となって捕まえます。悪党一味(潔癖な野々宮が知事となっては困る利権にむらがる連中)が集まったところへ、七つの顔の男は正義と真実の使徒・藤村大造となって事件の真相を暴くのです。七つの顔の男の素顔である藤村大造は、戦前は和製ルパンと云われた怪盗で、罪滅ぼしのために正義と真実を求めて活躍するんですな。“怪盗ルパン”から影響を受けており、この作品は“怪盗ルパン”の短編「謎の家」をモチーフにしています。娯楽に飢えていた終戦直後の大衆は、最後はカーチェイスまである、理屈抜き(誰にでもわかる千恵蔵の変装や弾丸きれしない二挺拳銃)の痛快さに歓声をあげ大ヒット。

『十三の眼』(1947年・大映/監督:松田定次)

凶悪強盗団を警戒していた二人の刑事が殺され、その一人が藤村大造(片岡千恵蔵)の恩人だったので、多羅尾伴内となって葬儀場に現れ、犯人逮捕を誓います。犯罪学研究の大学教授となって警視庁の鑑識から刑事がデパートの文字を現場に書き残していたことを訊き、歓楽のデパートと呼ばれるキャバレーが怪しいと睨むのね。片目の運転手となってキャバレーに乗りこみ、騒ぎをおこして怪しい人物をさぐります。占い師や縁日の香具師となって怪しい人物に近づき、闇賭博場の経営者(斎藤達男)が黒幕と考えます。大金持ちの紳士となって客を装いますが、クラブの歌手(奈良光枝)に変装を見破られ……

犯人一味は7人いて、ボスの片目が義眼だったので十三の眼ね。恩人の娘(喜多川千鶴)がホステスとなって潜入していますが正体がばれ、助けようとした大造も捕まり、降下する天井で圧殺されそうになるところは時代劇ですね。最後に正体を明かす藤村大造が、この作品では途中で正体を明かし、例の名調子(ある時は…、またある時は…)がありません。拳銃も弾丸きれしたりして、試行錯誤している作品です。

『二十一の指紋』(1948年・大映/監督:松田定次)

波止場で身投げしようとしていた女(喜多川千鶴)を助けた片目の運転手(片岡千恵蔵)は、女を家まで送るが不審を抱いてその家に忍び込みます。女の姿は見えず、殺人死体を発見するんですな。現場には南洋の短剣とモルヒネの注射液が残されており、探偵・多羅尾伴内となって笠原警部(大友柳太朗)を訪ね、現場には二十一の指紋が残されていたことと、家政婦の里見珠江が行方不明で容疑者であることを知ります。かねてから里見珠江を捜していた皆川弁護士(斎藤達男)へ押し売り的に捜査依頼を引き受けた伴内は何者かに撃たれますが、傴僂の男に変装して難を逃れます。モルヒネ中毒の老人となってスラム街に現れ、舞踊団のナナ(日高澄江)がモルヒネを所持しており、飯島男爵(高田稔)の秘密クラブに出入りしているのを知るのね。土屋男爵となって飯島を訪ね、そこで南洋探検家だった重松子爵の娘・きみ子(喜多川千鶴の二役)と会います。腹話術師となってナナに近づき、舞踊団にモルヒネ中毒だった踊り子がいたことをつきとめ、彼女が里見珠江で重松きみ子の異母妹であることがわかります。重松子爵の遺産管理人だった皆川弁護士は何者かに殺されますが、遺書は伴内が手に。ナナの話から飯島は麻薬密売団のボスで、殺された男がその一味だったことがわかり、秘密クラブのショーで腹話術師となって現れた藤村大造は、腹話術の人形を使って言葉たくみに一味の指紋を採取するのね。そして、麻薬密売団の仲間割れによる殺人と、重松子爵の財産をめぐる殺人を、最後に二挺拳銃の藤村大造となって真相を暴くのです。例の決め台詞(ある時は…、またある時は…)の後、飛んでくる弾丸をよける神業を披露します。「銃を向けられた時に避けたんではタダの人、ぼくは理屈を超えた強いヒーローを撮りたいんや」と松田監督は言ったとか。多羅尾伴内シリーズのフォーマットの完成です。

『三十三の足跡』(1948年・大映/監督:松田定次)

暁テル子と杉狂児が歌っているレビューの稽古シーンから始まり、幽霊騒ぎが起きます。10年前に人気役者が劇場主を怨んで自殺し、劇場主も死んだ役者の幽霊に祟られて死んだというんですな。その事件に不審を持った藤村大造(片岡千恵蔵)と笠原警部(大友柳太朗)が、演出家の川上(月形龍之介)に頼まれ、大道具の背景描きとなって潜入しています。どこからともなく足音が聞こえたり、笑い声やうめき声が聞こえるという奇怪な事が続き、劇団員の中に死んだ元劇場主の娘(木暮実千代と喜多川千鶴)がいたことから、劇場主の木塚(進藤英太郎)は川上に二人を辞めさせるように要求するのね。木塚たち劇場関係者の足元にわざとペンキをこぼした大造はクビになり、劇場の構造を調べるために片目の建築技師となって劇場を訪問。昔から大道具係をしている宗吉(山本礼三郎)が首吊り死体で見つかり、医者となって現れた大造はそれが殺人と考えます。老公証人となって現れた大造は元劇場主の娘に木塚が劇場を手に入れた経緯を訊き、真相に迫ります。そして多羅尾伴内となって、宗吉の死因調査に劇場に現れ、木塚たちを詰問。その夜、元劇場主の娘を襲おうとした幽霊(藤井貢)を秘密通路で捕えた伴内は、幽霊に変装して木塚たちの前に現れ、事件の真相を暴くのです。

題名は秘密の通路に三十三の足跡があったからなんですが、真相とは関係なく、数なんて幾つでのいいんです。これは、前作の『十三の眼』も『二十一の指紋』も同じです。ラストの決め台詞はなく、銃撃戦もなく、アッサリしています。大映でのシリーズはこれで終わりですが、試行している感じですね。以後は東映に移り、『片目の魔王』『曲馬団の魔王』『隼の魔王』『復讐の七仮面』『戦慄の七仮面』『十三の魔王』と続き、1960年の『七つの顔の男だぜ』で終了します。