僕の上司、32歳、人妻(13) | 夫の知らない妻

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官能小説「他人に抱かれる妻」別館です。

「最後は小沢くん、あなたからお願い」

 

課長による暴風が吹き荒れたあさかいが、ようやく終わろうとしている。

 

だけど、最後に報告をしなければならない僕は、緊張を限界にまで高めていた。

 

何を言ってもけちょんけちょんに言われるんだろうな・・・・。

 

失敗だった。

 

土曜日の夜、あのポルシェ911とあんな場所で遭遇さえしなければ。

 

これというのも全て中田絹沙のせいだ。

 

テーブルの端にいる彼女を再び見つめる僕。

 

「頑張って、小沢さん」

 

口を動かし、そんなメッセージを送ってくる彼女を睨みつけた後、僕はできる限り短く報告を行なった。

 

「先週訪問した先は次の3社です。それぞれ結果ですが・・・・。えっとそれから、今週の予定ですが、さくらスーパーさんと今日の午後オンラインで定期ミーティング、それから・・・・、あとは部長との月次会議の資料を・・・・」

 

おっ、これなら大丈夫じゃないか?

 

極度の緊張の中、僕は自分の簡潔な報告ぶりに我ながら満足し、ささやかな自信を持った。

 

会議に参加している先輩社員たちも、うんうん、といった感じで穏やかに聞いてくれた。

 

報告を終え、手帳に注いでいた視線をあげて課長を見つめる。

 

その瞬間、僕は見えないレーザー光線を浴びせられたかのように固まった。

 

美しすぎる表情を崩すことなく、手にしたペンをゆらゆらと揺らし、可愛い瞳を細めてじっと僕を見つめてくる課長。

 

「・・・・」

 

しばらくの間、僕は固まったまま課長と見つめ合った。

 

か、課長、僕を好きにしてください・・・・

 

心の中で僕がそうつぶやいたとき、課長がクールな口調で言った。

 

「それだけ?」

 

「えっ?」

 

「もうおしまいなの?」

 

「えっと・・・・、は、はい・・・・」

 

僕は想像した。

 

ベッドの上で、「ねえ、もうおしまいなの、小沢くん?」、と下着姿の課長に迫られる光景を・・・・。

 

「もうおしまいなの、小沢くん?」

 

「す、すみません・・・・」

 

「男の子なんだから。そんなんじゃ女性は誰も満足しないわよ。さあ、もう1回頑張りなさい」

 

僕の小さくなってしまったものを冷たい手で握りしめてくる課長。

 

「だ、駄目です、課長、そこは・・・・」

 

「いいから黙ってて」

 

「ああっ、課長・・・・、駄目です、そんなところキスするなんて・・・・」

 

・・・・・

 

そんな月曜朝の妄想を、現実の課長の言葉が打ち砕く。

 

「あのね、小沢くん」

 

意外にも、課長の声は少し優しいトーンに変わっていた。

 

「そんな業務報告的なことは聞きたくないの。あなたがどこと会ってるかなんて、私知ってるんだから」

 

「は、はい・・・・」

 

「それよりもね、あなたの考えをもっと聞かせて欲しいの」

 

「わ、私の考えですか?」

 

「そう。あなたがどこかと会ったなら、その結果をどう考えているのか。問題があるのなら、それに対してあなたはどうしたいのか。つまり、自分が毎日何を考えて仕事をしているのか、そんな話を聞かせてもらえると嬉しいんだけど」

 

「わ、わかりました・・・・」

 

課長は手元の書類を揃え、すっと立ち上がった。

 

朝の陽光をバックに、スーパーモデルのような姿で姿勢良く立った課長を、皆が見惚れるように見つめる。

 

「いい? 小沢くんだけじゃないわよ。みんなにもそんな報告を毎週ここでしてもらえるといいわね。じゃ、終わりましょうか。さあ、みんな、今週も頑張って!」

 

課長が歩き去った会議室に、一気に緩んだ空気が訪れる。

 

「いやあ課長、今日は機嫌悪かったなあ」

 

「おい、小沢、お前、何かやらかしたんじゃねえのか?」

 

先輩たちがからかうように僕に声をかけてくる。

 

「い、いえ、特に思い当たることは・・・・」

 

「でも最後は機嫌良かったけどな。あんなこと言ってたけど、課長、今日の小沢の報告に結構満足してたと思うぜ」

 

「そうですかね・・・・」

 

「お前の報告のとき、満足そうにうん、うんと頷いて聞いてたからな、課長」

 

へえ、そうだったのか・・・・。

 

「いつも以上に怖かったけど、いつも以上に綺麗だったな、今朝の課長」

 

「謎に包まれた旦那さんと仲良くやってるのかもな」

 

そんなことを言いながら、先輩たちが会議室から足早に出ていく。

 

立ち上がった僕に、擦り寄ってくる一人の女性。

 

「やっぱり可愛がられてますね、小沢さん」

 

どこか怒った様子でそうささやき、僕の腕をぎゅっとつまんで立ち去る中田絹沙。

 

「痛えな、おい・・・・」

 

つぶやきながら、僕は彼女との距離が随分近づいたことを感じていた。

 

そんな風に始まったその週は、忙しいながらも、平穏に過ぎていった。

 

課長と一緒に動く日もあれば、単独で仕事を進める場面もあった。

 

木曜日、同期の筒井と飲みにいく約束をしていたが、土壇場になって彼から仕事が遅くなるとの連絡が入る。

 

木曜午後9時、混雑しながらもどこか緩んだ空気が漂う常磐線で、僕は一人暮らしのアパートに向かった。

 

メッセージを受け取ったのは松戸駅を過ぎたあたりだった。

 

げっ、まさか中田絹沙か?!・・・・

 

不安と、そして認めたくはないけど、かすかな期待を込めてスマホを見つめる僕。

 

「明日の夜、あなたとデートしたいんだけどいいかしら」

 

それは、武川理沙、大課長からの直々のメッセージだった。