僕の上司、32歳、人妻(1) | 夫の知らない妻

夫の知らない妻

官能小説「他人に抱かれる妻」別館です。

「やばい、また課長に怒られる・・・・」

 

満員の地下鉄。

 

のろのろと動く千代田線の車内で、僕は朝から冷や汗をかいていた。

 

新規取引先になってくれるかもしれない会社に、今日は朝一で課長と一緒に直行する予定だ。

 

課長との待ち合わせは、午前8時半、新御茶ノ水駅、B1出口。

 

「おい、押すなよ」

 

減速していた電車が、急に加速した。

 

すぐそばに立つ会社員風のおっさんが、ふらつく僕にいらいらした様子でささやいてくる。

 

「す、すみません・・・・」

 

別に押してないじゃないか・・・・

 

僕は心の中でそんな文句を言うが、もちろん、口に出してしまう勇気などない。

 

額には汗が浮かぶ。

 

満員電車にいるから、ではなく、課長に叱られることを想像しての汗だ。

 

「すみません、電車が遅れてます。少し到着遅れます」

 

車内から課長に送ったLINEメッセージ。

 

即既読になった。

 

だが、返信はない。

 

やばい、怒ってらっしゃる、課長・・・・

 

時計を見れば、既に8時28分。

 

一人暮らしのアパートから、今朝は時間の余裕を持って出勤したつもりだった。

 

「間も無く新御茶ノ水、新御茶ノ水。お客様には、本日通勤ラッシュ混雑の影響により、電車が遅れましたことを深くお詫び申し上げます・・・・」

 

通勤ラッシュ混雑の影響って、おい、頼むよ・・・・

 

例によって心の中だけで悪態をつきながら、僕はドアが早く開くことを祈った。

 

僕の上司、課長は怖い。

 

今年入社2年目になる僕は、去年の6月頃からずっと課長と一緒に行動している。

 

「小沢恭平くん、か。ふーん、いい名前じゃないの。見た目はパッとしないけど」

 

初対面で課長に言われた一言を、僕は今でも忘れない。

 

新入社員の教育係として、僕にはどういうわけか課長がつくことになった。

 

社員の数は千名を超える大手メーカーだ。

 

僕が配属された課には、20名くらいの社員がいる。

 

他の新人には入社数年の先輩が教育係となったのに、なぜ僕には課長なのか、それはいまだに謎である。

 

「ありがたく思いなさい。私がしっかり教育してあげるから」

 

「は、はい・・・」

 

「返事が小さいわね」

 

「す、すみません・・・・」

 

「いちいち謝らなくていいわ。同じこと言われないように今度から気をつければいいだけ」

 

最初からこんな調子で始まった課長の僕に対する教育。

 

それは、今年になっても続いている。

 

ようやく駅に着き、扉が開いた。

 

ホームに溢れるたくさんの人の波をかきわけ、僕は全力で走った。

 

「おい、気をつけろ!』

 

そんな声が僕の背後から飛んだ。

 

「す、すみません!」

 

立ち止まり、頭を下げた後、再び走り出す僕。

 

階段を一段飛ばしで駆け上がる。

 

「なんでこんな長い階段なんだよ・・・」

 

息を切らしながら走る僕の前方に、5月の青空を伝える明るさが見えてきた。

 

「急げ・・・・」

 

やっと地上に出た僕は、ハアハア言いながら、周囲を見まわした。

 

課長は・・・、いない・・・。

 

神様、ありがとう・・・・。

 

どうやら課長も遅れているらしい。

 

無宗教の僕が天に向かって感謝し、十字を切った、そのとき。

 

「遅い!」

 

振り返った僕は、眩しい陽光をバックに腕組みをして立つ長身の女性がいることを知った。

 

膝丈のスカート、ヒールの高いパンプス。

 

「す、すみません!」

 

僕は、この日、何度目かの言葉を課長に向けて発した。