妻の役割(41) | 夫の知らない妻

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官能小説「他人に抱かれる妻」別館です。

「Boss, We gotta get out of this place now !! 」

 

車から飛び出してきたハネスが、コテージのバルコニーにいた私たちに叫んだ。

 

サバンナの地平線についに陽は沈み、周囲は闇が濃くなっている。

 

恐怖と興奮、更には罪を犯したものだけが感じるであろう焦燥感。

 

汗を浮かべた彼の顔には、そんな複雑な感情が入り混じっていた。

 

「さあ、早く!」

 

椅子から立ち上がったものの、呆然としていた私、ジム、そして佐和子の目を覚ますように、ハネスがもう一度叫んだ。

 

「さあ、ボス、行きましょう」

 

隣にいたジムが落ち着いた口調で私に声をかける。

 

「ああ・・・」

 

階段を駆け上がり、ハネスが私たちのもとにやってきた。

 

「ボス、終わりました」

 

「・・・・」

 

私はすぐに返事をすることができなかった。

 

罪悪感のせいではない。

 

全て計画通り、うまく運んだことが信じられなかったのだ。

 

「ハネス、車で詳しく聞かせてくれ・・・。佐和子、行くぞ」

 

「あなた・・・・、でも、皆様は・・・・」

 

「いいんだ、彼らはもう」

 

妻がこの状況を飲み込めるわけはない。

 

強引に彼女との会話を終わらせ、私たちは二人と一緒に階段を駆け降りた。

 

至近距離で、何か野獣の鳴き声がした。

 

「ボス、早く」

 

「ハネス、俺はお前の車で行く。佐和子、お前はジムの車に乗ってくれ」

 

「わかったわ」

 

2台の車に素早く分乗し、私たちは車を猛然と走らせた。

 

みるみるうちに闇が濃くなり、周囲をアフリカの野生の王国が完全に支配する。

 

ヘッドライトが照らす前方の深い闇を見つめ、私はハンドルを握るハネスに聞いた。

 

「予定通りか」

 

「最後まで見届けてきました」

 

「そうか」

 

「小さなテントですからね。しかも隙間だらけで外から丸見えときてる。あのあたりを徘徊している野獣の格好の標的ですよ」

 

激しく揺れる車の助手席で、私は想像した。

 

テントの中で寝そべり、部下の妻を待つ男たちが、思いもしない来客に驚愕する様子を。

 

「3人は怒っただろう、テントだって知って」

 

「それが少しも。ボス、あいつらは最後まで奥様を抱くことを想像してましたよ」

 

「狭いテントで部下の妻を3人で抱けるってことに、逆に興奮したってわけか」

 

「ええ」

 

「ミスター橋口は特に喜んでましたよ。早く奥様を連れてこいってね」

 

怒りに包まれた私は、しかしすぐにほくそ笑んだ。

 

「ざまあみろ、だな」

 

「ええ」

 

ハネスもまた、笑みを浮かべてアクセルを踏んでいる。

 

「それで、最後まで見届けたってのは」

 

「安全な距離まで離れて車を停めた後、双眼鏡でテントを観察し続けました」

 

「・・・・」

 

「想像以上に大きな1匹のメスのライオンがやってきたのは、1時間くらい経った後です。しばらくぐるぐるとテントの周囲を歩きまったかと思ったら、突然中に飛び込みました」

 

「1匹だけで、3人を?」

 

「私の友人に教えてもらった通り、おそらくあれはあの一帯では最強のライオンですよ」

 

「そうか」

 

依然として、罪悪感など私の心には微塵もなかった。

 

全ての寝取り野郎の末路はこうあるべきだ。

 

この国に来て以来、私はそんな妙な正義感に支配されるようになっていた。

 

その通りよ、中川さん。

 

何も間違ってなんかいないわ。

 

林君の奥様の声が、サバンナの闇の中にいる私にまで届く気がする。

 

「お前は大丈夫だったのかい?」

 

昂った様子のハネスに、私は質問を続けた。

 

「私が停車していた場所も、ツーリストは一切足を踏み入れない区画です。全て終わった後、慌てて引き返してきました。次の標的が私になる可能性だってあったわけですから」

 

「危機一髪ってわけだな」

 

「Yes. We Gotta Get Out Of This Place」

 

再びそうつぶやくハネスに、私は思わず笑った。

 

「昔、そんな歌をヒットさせたニューカッスルの連中がいたが」

 

「That's Animals」

 

「Yeah」

 

アニマルズか。

 

これはいい。

 

ここは動物の国だ。

 

荒れた道を飛ぶように走りながら、2台の車はやがてチェックゲートに到着した。

 

今日の朝、皆が集まった場所だ。

 

はるか昔の出来事のような気がする。

 

「佐和子、帰ろう」

 

ジムの車から降りてきた妻を、私は抱き寄せた。

 

全てを理解したのだろうか。

 

妻は何も言わず、私にすがりつき、肩に顔を埋めた。

 

「さあ、行こう」

 

「ええ・・・」

 

その夜、私たち夫婦は激しく愛し合った。

 

「今夜は抱いて、激しく・・・・」

 

明け方まで、妻は大胆な体位で私にされることを望み、何度も絶頂に昇り詰めた。