でぶるまんしゅーじですねん(間もなく閉鎖) -259ページ目

でぶるまん童話「でんわきがない」

それは、もう18年も前のことです。


国分寺町という街に建つ一軒家に、


若い夫婦が引っ越してきました。



結婚してまだ間もない二人は、


そんなにお金に余裕もなかったので


とりあえず必要なものだけを揃えて


ちょっとおままごとみたいな、


でも幸せな生活を始めたのでした。



一か月ほどして、旦那さんの友達から


贈り物が届きました。


それは夫婦がずうっと欲しがっていた


ものだったので、


一緒に包み紙を破くように取り払い、


テープをはがす手ももどかしく


「ごくり」とつばを飲み込んで、


いよいよ箱のふたを開いたのです。


「おー!」


「わあ!」


入っていたのは最新型の電話機でした。


黒っぽい本体に大きなボタンが恰好よく、


もちろん留守番電話機能付き。


そして、ちょっと大きめだったけれど


手にぴったりとなじむ子機が一個。


「これ、欲しかったのー」

「うんうん」


この家には電話線の差し込み口が


玄関にしかなかったので、


今までは居間でテレビを見ている時も、


二階の寝室で寝ている時も、


ベルが鳴ると玄関まで走らなければ


いけなかったからです。



その夜から新しい電話機は大活躍です。


携帯電話のない時代に留守番電話は


なくてはならないものでしたし、


奥さんのお腹に赤ちゃんがいることが


わかったので、


子機のほうもとても重宝されました。



親機は玄関脇で、子機は居間や寝室で、


家族のために役に立ち続けました。




やがて、そんな便利な生活にも慣れ、


ついに赤ちゃんを授かった夫婦が、


もう電話機のことなど気にもとめなく


なってしまってた、ある日曜日のこと。



「ママ! ママ!」


パパがママを呼んでいます。


「電話の子機、知らんー?」


いつもは居間の充電器の上に置いてある


子機が、どうしても見つからないのです。


「ママー?」


それどころか、ママも、赤ちゃんの姿も


見えません。


「??」


パパ、すっかり困ってしまって


家の中をうろうろうろうろ…



奥さんがいない。赤ちゃんがいない。


そんなことは今までになかったから、


不安で不安でしかたなかったのです。



「ママー! あかちゃーん!」



やがて玄関を出たカーポートのところで


パパは立ち止まり、車を覗き込み、


ほっと安堵のため息をつきました。


「まったく、もう…」



ぽかぽか陽気のやわらかい陽射しの下、


ママは背もたれを倒した運転席で、


赤ちゃんはママに抱っこされて、


ふたり一緒にすやすやと幸せそうに


寝ていたのでした。



思い切り安心して家の中に戻ったパパ。


「わ!」


玄関で、思わず大きな声を上げました。


「あったあった!」


パパがずうっと探してた電話の子機は、


玄関脇の靴箱の上で、


気持ちよさそうに寝転がっていました。



親機にぴったり寄りそって。



それはそれはしあわせそうに。