撃墜(中) | 野村孝博のブログ

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 柳田邦夫著「撃墜(中)」を読みました。上巻の続きです。

 

 本書は撃墜された大韓航空007便がなぜ正規のルートを数百キロも外れてしまったのかという所が中心の話でした。ジャンボ・ジェットはINS(慣性航法装置)と呼ばれる機械を使っているとありました。INSとはジャイロコンパス(回転儀を使った羅針盤)と小型コンピュータを連結した航法装置で、これから飛んでいく航路上のウェイ・ポイント(位置通過点)の緯度・軽度を、出発前にインプットして記憶させ、自動操縦にセットすると、飛行機を自動的に正確に目的地まで運ぶことが出来るのだそうです。

 

 このINSにおいて、緯度と経度の入力ミス、しかも(42°23.3‘N、147°28.8’E)と入力すべきことを(47°28.8‘N、142°23.3’E)と「4」以下の数字をそっくり入れ違えて入力してしまったのかという仮説が浮上しました。こうした入力ミスはありそうなのですが、通常はきちんとダブルチェックを実施しているそうです。ですから、そうそうあることではないともされていましたが、この入力ミスによって進む方向が、撃墜された007便の航路と見事に一致しており、読んでいて感心してしまいました。しかしながら、結果が合致しているからと言っても、一つの仮説にすぎないとして著者はまだ疑っていました。この辺りの姿勢がジャーナリストとしての経験値なのかもしれません。結局この仮説も当てはまらず、この後は、ああじゃないこうじゃないとINSの操作手順や、考えられるミスの羅列となり、若干冗長気味な内容でした。

 

 しかし、著者もさるもので、U2事件など、他の航空機にかかわる事件を引用して、再び興味を引かせてくれました。U2事件はアメリカのスパイ機として悪名高いU2がソ連領内で撃墜された事件についてでした。U2 レーダー電波を反射しにくい塗料を塗ってあり、迎撃機の上がってこれない高度を飛んでいたことから警戒心に書けており、ミサイルで撃ち落とされてしまったのでした。アメリカもこういうことをやっているから、民間機までスパイ呼ばわりされてしまうのだなと思わざるを得ませんでした。

 

 結局、航路離脱の原因はインプットミスが重なった、操作手順のミスとその確認不足が重なったといった内容に絞られました。ここで、「メンタル・インキャパシテーション」という言葉が登場します。日本語では「精神的機能喪失」といいます。航空業界では明らかに危険な状態になっていることを示す警報ランプが点いていることを副操縦士に指摘されて、機長もそれに気付いていたのに、適切な操作をしなかったために、事故になったという事例があるということでした。なぜ機長が適切な操作をしなかったのか、第三者の目には説明のつかない不思議なものと映るし、従来の医学・心理学では十分に説明することが出来なかったのだそうです。そこに導入されたのが「メンタル・インキャパシテーション」という概念だということでした。

 

 長くなりましたので明日に続きます。