*問題は、【東大教室】ブログ上公開演習➊-1(問題)で確認してください。
演習➊ 中世(総合) 御成敗式目と建武式目
解説①
■問題の性格
御成敗式目(貞永式目)と建武式目を題材に、以下の3点をとりあげた。
設問A
年紀法(知行年紀法)の意味をまとめる基本的論述問題。
注釈やヒントなしでの出題も可能だったが、東大の出題形式にあわせて史料読解という要素を強めた。
設問B
建武式目の一文にこめられた政治的意図を推測させる論述問題。
歴史(建武の新政)についての基本的理解に、設問のヒントを重ねて思考することができた受験生は正解に近づけたはずである。
設問C
室町幕府法のあり方に関する基本的論述問題。
この設問についても、与えられた史料(1)・(2)から、御成敗式目と建武式目の性格の相違を、その場で再確認できるようにした。
それでは、設問Aから順に、理解しておくべき内容と論述のためのポイントを整理していこう。
■設問A 年紀法(知行年紀法)
問題に引用した史料(1)は、教科書にも必ず掲載されているものだが、まず全文の意味を確認しておく。
一 下文(ここでは所領に関する公的文書をさす)を所持しているにもかかわらず、実際にその土地を支配しないまま、相当期間を経過した所領のこと。
これについては、現実にその土地を支配して20年を経過した場合は、源頼朝時代の慣例どおり、法的正当性の有無にかかわらず、(現実の所領支配者を)交代させることはできない。
この文章を一言で説明すると、所領支配の現実が20年続けば、その実状を権利に転化させて確定する、ということになる。
これは、所領支配における一種の時効(ある一定の事実状態が長期間継続した場合に法的規定に合致するどうかにかかわらず権利の取得または消滅を認めること)規定を明文化したもので、年紀法(知行年紀法、20カ年年紀法)と呼ばれ、武士社会が「正当」としてきた重要な道理の一つだった。
引用史料について、補足の説明を加えておく。
受講生のなかには、史料(1)の前半部(事書(ことがき))と後半部(本文)が食い違っているように感じた者がいたかもしれない。
時効という言葉を用いると、確かに、前半部は時効の消滅について規定すると述べているようであり、後半部は時効がどのようにして生じるかという説明になっている。
この点については、裏返しの表現を用いてはいるものの、事実上、同じことを述べていると考えてもらえればよいだろう。
ついでに、下線部①の冒頭「当知行」の意味についても簡単に説明しておきたい。
知行という用語は多義的なので、受験生の段階では区別がつきにくいのも当然だが、おおよそ、次のように考えておけばよい。
知行
中世~近世において、土地を支配し、そこから収益をあげることをさす用語。
中世社会においては、現実に知行していることを当知行、知行を失った状態を不知行と呼んだ。
鎌倉時代末以降、荘園制の崩壊にともなって、土地そのものの知行という傾向が強まり、戦国大名などは家臣に土地自体を知行として与えるようになった(知行地)。
知行地
江戸時代、幕府が大名に与えた土地を領知などと呼称したのに対して、主に大名などが地方知行制(じかたちぎょうせい)のもとで家臣に与えた土地のことを知行地(知行所)と呼んだ。
なお、解答例は史料(1)全体を読みとったうえでまとめてあるが、設問Aは、下線部①の「内容」を「わかりやすく」まとめよという問題なので、全訳内の下線部が正しく解釈されていればよい。
また、この機会に鎌倉時代における所領裁判のあり方についても、必ず再確認しておきたい。
→ 参考:□教科書の研究(鎌倉時代の裁判)
解 答
A一種の時効規定で、現実に20年を経過した所領支配の権利は、下文所持の有無などにかかわらず必ず保障されるという道理を示す。
(60字)