「いつまで続くんだろう。」

 

 収容されてからずいぶん経つが、まだ地上は落ち着かないのだろうか。

 

 父親は別の区画に居るのがわかっているからいいものの、兄さんの安否もいい加減に気になって仕方がない。

 

「隣の訓練していた連中もどうなったかわからないしな。」

 

 言われたとおりに毎日、この配管内の巡回をし続け、たまに異音のする箇所を見つけては報告、機械に詳しい彼が隙間に入り対処することもある。

 

 一人で行動することは禁止されていて、これは何かあった時に助けを呼ぶなどの対応ができるようにするための安全対策だとされている。

 

 いつどんな時代でも人間は技術に依存してきた。

 

 空気中の窒素から肥料を製造することで食料の確保を十分に出来るようになったし、いつでも清潔な水を飲めるようにし、本来排出するだけの汚水でさえも浄化して放出することで安全な環境を確保してきたわけだ。

 

 でなければ、いくら時代が進もうが常に我々はあらゆる病原菌におびえながらの生活をせざるを得なかったに違いない。

 

 病原菌と言えば、医療でさえも日進月歩の技術の賜物だ。

 

 さて、半ば強制的とはいえ、この莫大な費用と数十年をかけて作り上げたであろう大きな大きなシェルターにこうして居さえすれば、少なくとも飲み食いや寝る場所に困ることはない。

 

 しかし、離れ離れになった家族の安否、青い空と自然の空気が日々恋しくなってきている自分を感じる。

 

「もし地上に出た時、地平線まで一面瓦礫だったらどうする?」

 

「どうするって。」

 

「逆に俺らが地上に出る頃にはすっかり違う国になっていたりしてな。」

 

「…。」

 

 思えば、国もひとつのコミュニティに過ぎない。

 

 何が違うかって、規模と携える手段が違う。

 

 また、それぞれの歴史や文化を抱えていて、そこに生まれた者たちの生涯の心の財産や誇りだったりするわけだ。

 

 同じ言語を話す民族だけで集落をつくって生活しているとしても、自分一人で体と心を休めるための空間は誰であっても必要だろう。

 

 社交的であればあるほどいいに越したことはないが、帰る家とそんな居場所は誰しも必要なのであって、そんな大事な区別さえも取っ払ってしまうようなバカな考えを持つ人間はさっさと始末した方が良い。

 

 今のカオスな現状は、過去の向こう見ずな権力者たちが招いた災厄なのかもしれない。

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2025年7月18日にnote.comに掲載したものです。

 

 

 身に着けている作業着は汚れきっていて、それは機械の油なのか洗ったところで落ちそうにはない。

 

 とりあえず最低限の単位は取ったが、昔の制度で言えば高校前半程度で見切りをつけ、その教育過程を抜けたと言い、見た目はというと髪は金髪に染めているのがわかる。

 

 髪というものは時間が経つと当然に伸びるものだから、本来の地毛である黒髪が根元から数センチ、結果として金と黒の二色構成。

 

 まあ、それはこの状況だから仕方がない。

 

 一方で、シミひとつない綺麗な作業着に身を包み、髪は整えられ、手先まで文字通り清潔で文句のつけようがない。

 

 おまけに受け答えも実にはきはきとしていて、本人曰く研究課程には進まなかったが高度な教育過程もこなしたという。

 

 さて、どちらを信頼したものか。

 

 

 悩む必要は無い。

 

 機械の技術者として即戦力を持つのは圧倒的に前者であって、その実力は言葉すら必要なく、見た目が証明している。

 

 庶民でありながらここにいるということは、何もできないし持っていないわけではないという前提に立つとこのまま従事させ、元に帰さない方が得策だろう。

 

 わざわざあの場所を見せたのは、自分たちよりも良い待遇を受けている人間がいる事に対して、湧き出て来るものがあるのかどうかを見たかったのだが、どうもそうはならなかった。

 

 実に興味深い。

 

 まあしかし、醜い感情を表に出さないだけで腹の中では自分たちばかりいい思いをしやがってと今頃罵っているかもしれない。

 

 

 いや、さすがに感情が先に出るような人間には見えなかった。

 何でも差別として捉えるのではなく、区別を理解できる人間だ。

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2025年7月12日にnote.comに掲載したものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「さあ、着いた。」

 

 エレベーターに乗り込む前と空気の匂いが違う。湿った土のような中に、生ごみのニオイだ。

 

 降りたとたん捕まるんじゃないかと、彼の言う冗談を真に受けて身構えていたのだが、その必要はなさそうでひとまず安心する。

 

「すごいな」

 

 上から見下ろしても最下層の地面が見えるだけで、そこが最深部だと思っていたのだがまだその先があったようだ。

 

「どれだけあるんだよ。」

 

「ここはゴミや汚水の処理をやっている施設だね。」

 

「全部自動ですか?」

 

「出来るものはね。」

 

「へえ。」

 

 

「ほら、あれを。」

 

 彼が指し示す先にはずいぶん高そうな酒類の瓶やら食品のゴミやらが集積されている。

 

「こんなものもここでは扱っているんですね。」

 

 生々しい他人の廃棄物を見るのはあまり心地よくはないのだが、こういうところには普段は見えない隠されたものが転がっているから面白い。

 

「君たちに提供されることは無いさ。」

 

 

「なるほど、確かに偉い人たちもいるんですね。」

 

「正確には肩書とそのコミュニティがそうさせているだけ、だけど。」

 

「肩書とコミュニティ?」

 

「仮に辞めたならただの一般人だろ?」

 

「あ、そうか。」

 

「血筋で辞めることが出来ない立場もあるけどね。」

 

 

 そろそろ寝ようと帰りのエレベーターに乗り込む。

 

 普段立ち入ることの無い場所を見ることが出来て新鮮な気持ちだったが、すべてが自動で動いているわけではないとなると、ああいった環境に詰めて作業をしている人たちもいるわけだ。

 

 自ら望んで配属されたのならばいいが。

 

 そのあたりの話に触れようと思ったが、誰一人いなかったあの場所を考えると恐ろしくなってやめた。

 

 

 両耳の鼓膜に圧力がかかっているような感覚が妙に気持ちが悪い。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2025年7月5日にnote.comに掲載したものです。


 

 

「知的に見えるサルも、この広い世界のどこかにいるかもしれない。ただ、肝心の知性が期待通りにあるかどうかは別の話だということさ。」

 

 この施設がどう機能しているのか、もっと間近に観れる場所があるから見に行かないかと誘われ、ぜひとついて行く。

 

 彼は僕たちと違い、色々と知らされているようで、流れ聴く噂と外に出られる日は本当に来るのかという、ここ数か月行動を共にする友とは違う何かを感じている。

 

 彼の持つIDは隔壁のセキュリティをも越えて、まさしく裏通路のさらにはそのエレベーターまで流れるようにやってきた。

 

 

 こんな構造になっていたのか。

 

「こりゃわかんねえわけだ。」

 

「僕らなんかが来ちゃっていいんですかね。」

 

「ははは、駄目なら一緒に降りた先で捕まるかもね。」

 

「えええ?」
 

「いやいや、ええ?」

 

 ここまで来ておいてなんだが、戻りたくなってきた。

 

「君たちのIDの下層だから、問題ないさ。」

 

「どういうことですか?」

 

「うーん、どう言ったらいいかな。
まあ、このお礼だと思ってくれればいいよ。」

 

 そう言いながら、左手に持った炭酸飲料のペットボトルをちゃぷちゃぷ揺らして見せる。

 

 さっき僕が渡したものだ。

 

 この施設ではお金はないが、日々の勤務の見返りにIDに対して価値が付与される。それを使って好きなものと交換してもらう仕組みだ。

 

 物資には限りがあるため、選択肢は決して多くはないが。

 

 ここ数か月は馴染ある商品を目にすることが多く、日々の食事だって充実していて、逆に大丈夫なのだろうかと心配するほどだった。

 

 備蓄する食品にも賞味期限や消費期限があるので、新たに生産できないと当然時間と共に姿を消していく。

 

 その代わり、質素なパッケージで中身は従来の物とほぼ遜色のないものが現れるようになってきた。

 

 それはつまり、この広い施設のどこかで生産できている、そういう事なのかもしれない。

 

 エレベーターは下を目指していて、この宙に浮く感覚は久しぶりだ。

 

「君たちが言う権力者もこの施設には居てね、初めて来た日なんかは目にする機会もあったんじゃないのかい?」

 

「どこかで見たなあってくらいでしたね。」

 

「ああ、そうか。中にはメディアによく出てた人も居てね、ちょっとした騒ぎになっていた場所もあったってさ。」

 

「へえ。」
 

「わかる気がするなあ。」

 

「まあそうなるよね。」

 

「役割がある人間は仕事が秩序を維持させるけど、そうじゃない"力だけ"の人間もいるから厄介なんだよね。」

 

「と言うと?」

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2025年6月28日にnote.comに掲載したものです。

 

 

 

「自分がいかにスゴイかに固執して酔っている奴が多いね。」

 

 

 この一言に今まで彼が見てきたものが詰まっている気がした。

 

 

「そんな時はどうしているんですか?」

 

「無視するさ。」

 

「出来るもので?」

 

「するしかない。
ある意味、それができるかできないかで運命が変わると思っていい。」

 

 

 広いこの未だ得体のしれない施設の中でもこの”エンジニア"居住区画は静かで、まるで夜の静かな住宅街をそのまま持ってきたように平和だという。

 

 

 このような言い方だと、そうじゃない場所があるように思えるが大丈夫なのだろうか。

 

 

「君たちも今、何が起こってこうなっているのかはある程度推測しているんじゃないのかい?」

 

「それじゃあ…?」

 

「そうだ。今、私たちは戦争に巻き込まれている。」

 

 言葉を失う。なぜと尋ねるのは無駄だろう。

 

「君たちも私も、生業と実績が評価されてここに囲われているんだよ。」

 

 ここに初めて来て手渡されたバインダーの中身を見た父は、そういうことだろうと言った。

 

 自分の妻も長男もここに一緒にいないことに普通なら感情的になるだろうに、実際僕もたった一人の兄がここにいないことを訴えようとするのは一旦抑えよと併せて父は言ったのだ。

 

 例え意味が無くても、訴えるべきは訴え、身内の命を救うための行動をなぜとらないのかという点に不満と疑問を持たざるを得なかった。

 

 

 一言でいえば、なんと薄情なんだろうかと。

 

 

 しかし、その一方でなぜそう考えるのかも理解できる。

 

 どう考えても、得体のしれない誰かに生かされている状況だからだ。

 

 僕らが知っている法治国家はまだ息をしているかもしれないが、ここに至ってはそうではないかもしれない。

 

 物理的に普段の社会秩序が破壊された今、銃片手に監視する彼らに、人権だのなんだの法の定めや道徳はこうだと説いたとして何になろうか。

 

 

 まずは生き延びて、地上へ出てみるのが最善だろう。

 

 

 と、ここまで考えてふと彼の言ったことを思い出してみる。そして、ここまでどこかで見たことがあるような人物を数々と見てきたことと、この国の象徴たる人物もここのどこかにいるという事を。

 

 

「ある程度権力を持った人たちもここにいるんですよね?」

 

「むしろ、そのためにここがあるんだが、、」

 

 

 何かを含んでいる。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2025年6月21日にnote.comに掲載したものです。