「自分がいかにスゴイかに固執して酔っている奴が多いね。」
この一言に今まで彼が見てきたものが詰まっている気がした。
「そんな時はどうしているんですか?」
「無視するさ。」
「出来るもので?」
「するしかない。
ある意味、それができるかできないかで運命が変わると思っていい。」
広いこの未だ得体のしれない施設の中でもこの”エンジニア"居住区画は静かで、まるで夜の静かな住宅街をそのまま持ってきたように平和だという。
このような言い方だと、そうじゃない場所があるように思えるが大丈夫なのだろうか。
「君たちも今、何が起こってこうなっているのかはある程度推測しているんじゃないのかい?」
「それじゃあ…?」
「そうだ。今、私たちは戦争に巻き込まれている。」
言葉を失う。なぜと尋ねるのは無駄だろう。
「君たちも私も、生業と実績が評価されてここに囲われているんだよ。」
ここに初めて来て手渡されたバインダーの中身を見た父は、そういうことだろうと言った。
自分の妻も長男もここに一緒にいないことに普通なら感情的になるだろうに、実際僕もたった一人の兄がここにいないことを訴えようとするのは一旦抑えよと併せて父は言ったのだ。
例え意味が無くても、訴えるべきは訴え、身内の命を救うための行動をなぜとらないのかという点に不満と疑問を持たざるを得なかった。
一言でいえば、なんと薄情なんだろうかと。
しかし、その一方でなぜそう考えるのかも理解できる。
どう考えても、得体のしれない誰かに生かされている状況だからだ。
僕らが知っている法治国家はまだ息をしているかもしれないが、ここに至ってはそうではないかもしれない。
物理的に普段の社会秩序が破壊された今、銃片手に監視する彼らに、人権だのなんだの法の定めや道徳はこうだと説いたとして何になろうか。
まずは生き延びて、地上へ出てみるのが最善だろう。
と、ここまで考えてふと彼の言ったことを思い出してみる。そして、ここまでどこかで見たことがあるような人物を数々と見てきたことと、この国の象徴たる人物もここのどこかにいるという事を。
「ある程度権力を持った人たちもここにいるんですよね?」
「むしろ、そのためにここがあるんだが、、」
何かを含んでいる。
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。
※この作品は2025年6月21日にnote.comに掲載したものです。
