風邪カゼ伝染うつされたくなければ、
風邪が蔓延まんえんしている場所にわざわざ近づかなければいい。

 

 

 嫌なことを言われたくなければ、
嫌なことを言われるようなことをしなければいい。

 

 

 続けたくなければ、
辞める権利を行使すればいい。

 

 

 空っぽな人間ほど、後がなくなると人の気持ちを考えろだの尊重しろだの抽象的な言葉に終始し、逃げるのはいつものパターンだ。

 

 逃げる場所があるだけよかったな。

 

 大したこと出来る器でもなく、あとは死を待つだけで、

他人にはああしろこうしろと、口だけは立派なクセにいいご身分である。

 

 

 その時が来たら周りはさぞスッキリするだろう。
待ち遠しいな。

 

 そう思うと、
それが実現するまでワクワクして待つ時間も案外楽しいものだ。

 

 

 新幹線の窓が、なじみ深い場所を映し出すといよいよ帰ってきてしまったと実感する。

 

 仕方がない、そのまま行こうか。

 

 携帯端末の電源を入れると、井上さんから不在着信がずらり。
留守番電話機能は使っていない。

 

 チャットを覗いてみると同じく井上さんの「何やってんの?」という感情にまみれた文章と、社長から一件だけ通知が入っている。

 

 

 予想した通りだが、この瞬間は緊張した。

 

 いよいよクビかあ。
まあ、いいや。

 

 

 明日からのんびりしようと考えを巡らせながら、
社長からのメッセージを開いた。

 

 

 「今日は事務所にいないから自宅までおいで。
そんなに遠くないよ。」
地図まで添付されている。

 

 いつもの駅からタクシーで5分くらいか。

 

 確かに、最後のけじめくらいはつけないとな。
退職願をこのままチャットで送るには気が引ける。

 

 

 もしかしたら、社長はそこまで読んでいたのかもしれない。

 

 社長には奥様がいて、小さなお子さんが2人と聞いている。
自宅というと、わたしはその家族団らんの中にお邪魔をするわけだが。

 

 緊張するが、いきなり怒られることはなさそうだ。

 

 キャリーバッグをタクシーから降ろすと、5階建ての古くは無いが築年数はありそうなマンションだった。

 

 オートロック式なので、エントランスで部屋番号を入力して呼び出しボタンを押す。

 

 すると、女性の声でどうぞーと明るく声がかかったかと思うと、自動ドアがすっと開いた。

 

 玄関の前に立ちドキドキしながら、また呼び鈴を押そうとすると、ガチャっと扉が開き、社長が3歳くらいの男の子を抱っこしながら顔を出す。

 

「来たね、さあ入って入って」

 

 思っていた展開と真反対の展開にわたしは言われるまま、そして流れるようにリビングまで通された。

 

 外が暗いと思ったら、夜は7時を回っていた。

 

 いい匂いがするなと思うと、リビングのテーブルには所狭しと料理が並べられている。

 

 奥様の手作りだろう。

 

「大変だったね、せっかくだから温かいうちに食べよう。」

 

 そうして、5さい!とはっきり自分の歳を教えてくれた息子さんに洗面所に案内されて一緒に手を洗う。

 

 こんな家庭に人生でまったく縁が無かったので、何が起こっているのかさっぱり理解できていなかった。

 

 

 中華と和食が特に得意だと言う奥様の料理は大変美味しく、毎日でもお願いできないだろうかと厚かましいことを考えるも、なんだか心が温かい空気に触れて目頭が熱くなる。

 

「おねえちゃんどうしたの?」

 

 ううん、なんでもないよと頭をなでると、ちょっと外の空気を吸わないかと社長にバルコニーへ誘われた。

 

 食器洗い乾燥機に食器をセットすると、察した奥様が子供たちに、さあ絵本を読もうかと声を掛けた。

 

「よくひとりで行ったねえ。」

 

 意外な展開に加えて、社長の意外な一言に驚いた。

 

「すごかったでしょ。
あそこはさ、もう長い事あのままなんだ。」

 

 今になって怖さが全身を走った。
泣くのは女がすたると思ってがまんしていたのに。

 

 

「ごめんね。
偉そうに社長といっても全部できるわけじゃ無くてさ。」

 

 社長がリビングのハンドタオルを取ってきてくれた。

 

「今、会社の株を上場しようと取り組んでいてね。
君ならさ、あの設備が役に立っているかどうかわかるでしょ。」

 

 確かに。
珍しい物ばかりだったが、実際役に立つかと考えるとそうではない。
時代に取り残された、まるでタイムスリップしたようだった。

 

 人間も含めて。

 

「場所は良いんだよなあ。
通信設備は更新され続けているからね。」

 

 雲の合間から星がちらほら見える空を一緒に見上げる。

 

 

 社長、申し訳ありませんでした。と向き直って伝える。
続く言葉を遮るように社長が口を開いた。

 

「どうして?
別に何も悪いことしてないじゃないの。」

 

 

 わたしはさっぱり状況が読めなくなった。

 

 

「彼らは決して悪い人間じゃあないとは思う。
でも強いて言えばズルいんだ。」

 

 

 そのまま続ける。

「私にも報告があってね。
 『今日来たあいつは無礼だ、態度が悪すぎる。
  少なくとも先輩として注意をした。』
だってさ。」

 

 社長が少し笑った。

 

 わたしは何があったのか、
すべてを最初から話そうとするが、社長が続ける。

 

 

「彼らは私に嘘をついた。
これでようやくけじめをつけることが出来る。」

 

 どういう事だろう。

 

 不思議に思うわたしを見て、社長がまた笑った。

 

「言ったでしょ。
通信設備は最新なんだって。」

 

 

 もしかして。

 

 

「そう。
エレベーターから事務室まで、すべて監視カメラでモニターできる。
彼らは音は拾われていないと思っていたようだね。」

 

 

 音は物体から振動を発して空気中を経て相手に伝わるものだ。
確かにマイクはついていないが、物体が発する振動を解析できる。

 

 

 つまり音はもう、マイクで拾う必要が無いのだ。
発振源さえ撮影できていれば十分なのである。

 

 

 彼らは、見られているものは映像だけだと思っていたようだが、残念ながら会話もすべて筒抜け、記録も第三者である警備会社に一部始終が残されていて、報告を受けた時にはすでに本社が把握を済ませていた。

 

 

 わたしが泣きながら一部始終を話す必要は無くなったという事だ。

 

 

「彼らは全員処分する。」
社長にしては珍しく語気を荒げた。

「せっかく、以前の労働法制の権利を持ったままだったのにね。」

 

 

 最低給付保障制度ベーシックインカムが創設されて以来、いわゆる正社員雇用や解雇に関する規制は撤廃された。

 

 企業は採用しやすくもなったし、即日解雇も可能になったのだ。

 

 ただ、移行期間としてそれまでの雇用契約は尊重されるという形ではあるが、今なお残っているケースが少なくない。

 

 

 尊重規定にとどまるので、業績が悪い会社は退職金をいくらか支払うことで即日解雇を可能にしている。

 

 給料は民法上の契約という形で支払われる仕組みとなった。

 

 

「今取締役が、何人か引き継ぐチームを連れて向かってるよ。
これまでの業務が適切だったか調査も指示したから懲戒解雇だろうね。」

 

 

 わたしはすっかり、社長の言葉に耳を傾けるだけの案山子かかしのようになっていた。

「おねえちゃんあそぼー」

 

 リビングと仕切る重いガラスのサッシを小さな手で押しのけながら、そう声を掛けられた。

 

「ああーよかったら遊んでくれるかなあー。
もう、後の事は心配しなくていいから。」

 

 わたしはこの社長になら、ついて行こうと心に決めたのだった。

 

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。架空の創作物語です。

※この作品は2024年3月27日にnote.comに掲載したものです。

 

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-- PR ここまで --

 

 湿気が多くなって、暖かくなってくると必ず思い出すトラウマがある。

そう、カビだ。今回はカビに殺されかけた話。

 

 

 カビには様々な種類があるが、そんなことはいい。

特徴は以下のとおりで、非常に厄介だ。

  • 胞子を飛ばす
  • 毒を出す
  • 見えないが確かに存在している
 

 新築に住んでるから大丈夫だという人もいるだろう。

 

 まあ、そう思いますよね。

ただ、この話は新築のマンションに住んでいた時の話だ。

 

 最近のマンションや住宅は気密性が高い。

 

 加えて、最近の気候変動の影響もあって、日本は高温多湿に向かう一方、

熱帯化が進んでいる。

 

 

 カビにとっては天国化している。

 

 

 最初は頭痛から始まり、吐き気やめまい。

これにアレルギーが重なると、運よく病院にたどり着ければラッキーで、最悪死に至る。

 

 部屋をなかなか満足に掃除できない日々が続くと、あなたも例外なくいつの日かそうなるだろう。

 

 機密性が高いからこそ、換気が満足にできない。

 

 つまり、何か間に空気清浄機等の対策を挟まないと、それまでは永遠に同じ空気を無限ループすることになり、かつその空気を吸い続けるのだ。

 

 そりゃ、アレルギーにもなるさ。

 

 ゴミをなかなか片づけられない人など特に気をつけた方が良い。

いつの間にか、その身体はカビに蝕まれている事だろう。

 

 

 突然高熱が出るなんて当たり前、立っていられない目まい。

食事なんかまともにできるわけがなく、そのまま横たわったままに。

 

 救急車に頼れればいいが、一人暮らしだとガラスを割られる羽目になる。

火災保険が効けばいいが、賃貸ならまた厄介だろう。

 

 

 おかしい、と思って耳鼻科に通うも所見なし。

 

 しばらく外の空気を吸っていれば回復するという奇妙な症状。

 

 原因は家の中に居続ける、同じ空気を吸うことにあるからだ。

 

 

 エアコンはカビの巣窟、中の回転ドラムには黒カビがびっしり。

 

 結露しやすい窓ガラス、サッシは言うまでもなく。

 

 

 リーズナブルな新築戸建てやマンションの、24時間換気システム換気口は本気でよく確認した方が良い。

 

 換気口のフィルターや装置を外すと外壁までの通風孔が確認できる。

塩ビ管が入っているかチェックしよう。

 

 安いと塩ビ管が入っておらず、壁の間の断熱材がモロ出し状態だったら要注意。

 

 

 水分と湿気を吸って、黒カビその他の温床になっていく可能性が高い。

 

 すると、どうなるか。

 

 

 せっかくの新鮮な外気にカビをわざわざどっさり供給して、お部屋の中にウエルカムしてくれるからである。

 

 フィルターには黒カビその他がびっしりつくようになるから、それが目安になるだろう。

 

 思い出すだけでぞっとする。

 

 

 私は、結局目まいその他の薬が手放せなくなった。

まともに働けない状態になった。

 

 

 血液検査が毎回憂鬱なんだわ。

もし、お子さまがいる家庭ならば、余計に気を遣う事をオススメする。

 

 

 最低でも、エアコンの取扱説明書の通りに、フィルター掃除は本当にした方が良い。

 

 塩素系洗剤は呼吸器疾患のリスクもあるので、乳酸系のカビ取り剤を用いた方が賢明である。

 

 ウェットティッシュタイプは本当にオススメ。

セリアなどの百均にフローリングワイパーが置いてあるので、それを手に入れて壁や天井、クローゼットの天井や壁などかんたんに掃除ができる。

 

 床のホコリは目に見えなくてもカビを含んで散っているので、できるだけ掃除機で空気中に巻き上がらせないように、そうしたものでまず、ふき取った方が賢いだろう。

 

 日常で吸う空気も、水と同じように人間には必要不可欠。

 

 生きていくには身体が資本。

 

 カビを殲滅できればいいのだが、残念ながら共存するほかない。

もし、心当たりがある方は特に、悪化しないうちに早めの対策をオススメする。

 

 なお、下にAmazonで簡単に手に入るカビ対策グッズをピックアップしておいたので、参考にして頂ければ幸いである。

 

 

 

 としを無駄にとると、前に自分が何を言ったのか、しつとは何かすら、よく分からなくなるらしい。

 

 

 そのくせ無理に周囲と関わろうとするから厄介だ。

 

 何がそうさせるのだろうか。

 

 

 怖い怖い先達がいなくなり、まるでそれは糸の切れたたこ、無駄に肥大化したプライドが服を着て宙を舞っているようである。

 

 

 いつどこに落ちてくるかわからないから迷惑、目障りだ。

 

 肝心なものもそれほど大きいわけがなく、大きくもならなかった役立たずが、まるで電球が切れる直前のように、やたら元気である。

 

 

 あと数年もすればいなくなるだろうと、適当に陰で笑われていることにさっぱり気づいていない。

 

 ある意味幸せなことだ。
 

大きくもなく、大したものでもないから、さぞよく燃えるだろう。

 

 今日も日本は間違いなく平和である。

 

 

 

 例の先輩とのペアはめでたく卒業、一人で拠点を任せられることが知らされて以来、外は雨でも心は晴れやかな日々となるはずだったのだが、その前に地方に数か月行って欲しいと言われてしまった。

 

 

 引っ越すわけにもいかないから、しばらくはホテル暮らし。一度やってみたかった薔薇色の滞在生活、とはいかなかった。

 

 ホテルと言っても、ビジネスホテルのワンルーム。
食事はつかない寝泊まり専用のきわめて質素な滞在生活。

 

 これはこれで非日常なのだが、日当たりが悪いせいかどうもカビ臭くて気になる。

 

 しかも、その赴任先は古い雑居ビルで、エレベーターに乗るのも怖い。

 

 雑居ビルだから、他の階の人達もエレベーターに乗り合わせる。
どうかしたら住んでいる人もいるかもしれないな。

 

 

 このビルは携帯電話の基地局にもなっていて、その光回線に便乗できるから、地方拠点として十分な創業間もなく設けた施設だと聞いている。

 

 しかし、当時はベーシックインカムなど導入されていなかったし、古いサーバーで構成していることもあって、技術者も年季が入っている。

 

 来てわかった。
これも見ておけということだ。

 

 見る人が見れば懐かしい物が、段ボールに無造作に詰め込まれてそこらじゅうに転がっている。

 

 これはすごい。

 

 

 そんな新鮮な気持ちで乗り切ろうと自分に言い聞かせていたのに、赴任して早速事件が起こった。

 

 軽く挨拶して乗り合わせた年配の人が、どうやらここのセンター長だったらしく、その人が言うには挨拶が無かったのだという。

 

 住人かと思っていた。
見た目からして、昔の制度でいうところの定年間際の世代だろう。

 

 なるほど、髪の毛は後頭部にかけて前線が後退していくらしい。なんとか正面から頭頂部の毛がうっすら耐えているのが見える。

 

 勉強になるな。

 

 

 センター長とは言え、十数人の小さな拠点なので比べ物にならない。

 

 とはいえ、創業当時から居るような人物なので、そこは敬意を払う。その頃にはもうすっかり定着していたAIのおかげで、ほとんど仲間同士で雑談を散らかしてきただけだと聞いているが。

 

 右も左もわからない、ただただ無知な人間のままにこんな場所に飛び込めば、それはそれは髪、いや神を前にした無力な存在のように、その教えを乞うたかもしれない。

 

 ただ、わたしはまだ若いとはいえそれなりに技術と知識を身に着け、さらには磨いてきたという自負がある。

 

 

 隣のゆみさん・・・・じゃないが、技術投稿ウェブサイトにちょっとした寄稿もしており、なんなら少しだが名が通っている。

 

 それが何よりの自信になっているから揺るがない。わたしの自信の根拠は、この人たちとはまったく別のところにあるわけだ。

 

 ただ一方的に、自分に聞こえなかった、挨拶が無かったと決めつけているだけの年寄りに、こんなにも怒られている。

 

 そもそも何の話をしているんだろう。

 

 何をこんなに揉める必要があるんだろう。

 ふと、冷静にそんな考えがよぎると、この状況がおかしくて可笑しくて仕方がない。

 

 ぷっと思わず笑ってしまった。あーあ。

 

 茹でダコのように頭を真っ赤にしながら怒るその人は、手をあげて来そうな勢いだったので、わたしは思わず左手に持っていた雨傘を竹刀のように構えた。

 

 周囲の人たちがセンター長をかばうように止めに入る。

 

 怒っているのは見た目で分かるが、いまいち声が小さくて迫力が無い。
つまり怖くはない。

 

 何なら、一発どこぞに差し込んでやろうかと思った。

 

 じっと間合いを詰めると、動揺するのが解る。

 

 一人がどこかに電話を掛けようとしたところで、わたしはふっと笑みを浮かべると、その場を後にした。 

 

 女一人相手に情けない。

 

 とはいえ、冷静に今考えると、襲われなくてよかった。

 

 

 いつもより早い心臓の鼓動を感じながら、ホテルの荷物を引き上げると、新幹線に乗るために駅へ向かう。

 

 あの機材たちには興味はあるが、こんな街にはいたくない。

 

 もうそろそろ報告されているだろう。

 

 さあて、どうしたもんかな。
途中の観光地にでも余裕をかまして寄ってやろうかとも思ったが、そんな気分で巡っても、良い記憶として何も残らないだろう。

 

 悔しいが、直接社長がいる事務所に出向いてやろうと、携帯端末の電源を切ってぼんやり。

 

 飛行機よりは時間がかかる新幹線の窓に、次から次へと流れる景色を眺めながら、考えをまとめるのだった。

 

 お土産を買うのを忘れた。

 

この物語はフィクションであり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。架空の創作物語です。

この作品は2024年3月26日にnote.comへ掲載したものです。

 

 礼節を語るのであれば、例え誰が見ていなくとも、形なきものにも礼を尽くしたいものだ。

 

 さもなくばただの見せかけにすぎず、ただの"そう言えるオレスゴイ"。

そういうただの嘘に他ならない。

 

 一端いっぱしの人間かどうか立派に品定めできるくらいにお前はエライのかとついつい笑いたくなってしまう。

 

 わざわざ周りが口に出して指摘してあげるまでも無いだけに過ぎない。
裸の王様も立派に出来上がったものだ。

 

 人間空っぽだと年齢や経歴、そして肩書や立場に頼りがちだから気をつけなければならないな。

 

 

 さて、今日は近所の神社にお参りをしている。

 

 すっかり夏になって、うだるような暑さではあるが、誕生日が近くなるとこうして近所の神社にご挨拶に伺うようにしているのだ。

 

 日差しはちょうど雲に遮られて地面まで届いてはいない。

 

 日中は正午を過ぎたあたりであって、明るくはあるものの、日焼けを気にするわたしにはちょうどいい。

 

 手水舎からちょろちょろと水音が心地よく、その音を背景に神前、敬礼を二回、柏手かしわで二回、そして敬礼を一回、目線を下に日ごろのお礼を申し上げる。

 

 年末年始に伺いたいところだが、あまり人が多いのは苦手なので、時期を外して伺う事にしているのだ。

 

 ご存じだろうか。正月の正は一であり、すなわち一月の事を指す。松の内は正月の十五日までをいう。

 

 その間にお参りをするようにしている。
おみくじを引きたいのもあるし。

 

 今年は吉を引いた。

 

 話によると、この神社のおみくじには凶みくじがあるらしい。
どんなことが書いてあるのか気になるが、できれば手にしたくはない。
 

 

うーん気になる。

 

 その欲求を満たそうと思うとスッキリはしそうだが、その先の一年をモヤモヤしながら過ごさないといけないかもしれない。

 

 おみくじとは、そのなじみ深さと見た目の微笑ましさとは裏腹な、実はシビアで酷なシステムなのかもしれない。

 

 なんてことを考えていると、ぱらぱらと小雨が降ってきた。

 

 今日は雨が降る予報はなかったはずだが、
少し社務所の軒下で雨宿りをさせてもらおう。

 

 天気が良かったのに、急に雨が地面を濡らす。

 

 独特な香りも、寒く無いこの季節だからこそ心地よく感じるから好きだ。

 

 おみくじはまた年始の楽しみにとっておくとして、さてこの後どうしようかと軒下から空をのぞき込むと顔にちょっと冷たい雨粒。

 

 

 誰かの幸せとは別に、誰かの不幸があるとすると、その両者すべてを足し合わせれば、この世界はきれいにゼロになるのかもしれない。

 

 強引に、今生きているだけで幸せだと思う事も出来る。

 

 それは間違いではなく素敵だと言えるのかもしれない。

 

 しかし、強引であるという事は心のどこかでそう思ってはいないはず。

 

 つまり、真に幸せだと思っているとはいえない。

 

 どうしたらいいのか。

 

 簡単だ。
自然に幸せだと、そう思える人間になればいい。

 

 ポジティブな言葉を言うように、思うようにしましょうと言う。
それも同じだろう。

 

 したがって、元来人間はネガティブだと言わざるを得ない。

 

 ただ、それは決して悪いわけではない。
危機管理上必要なだけだ。

 

 ただし、過ぎれば精神疾患へまっしぐらだろう。

 

 ふと、自分もいつか見えない存在になるのかと考える。

 

 その時は、せいぜいわたしを知る人物が、在りし日のわたしを想って手を合わせてくれるくらいだろう。

 

 今の文明の前にもいくつか文明があったらしい。
あれ?じゃあ滅んだ人たちは一体どこへ行ってしまったのか。

 

 たまたま幾多の命がその子孫へと受け継がれ続けて、一時は2億人の人口を誇った日本も、少子化の流れで明治時代水準の人口3千万人へと向かっている。

 

 残りの1憶7千万人の魂は?
見えないだけで、共に存在していると考えたほうが自然かもしれない。

 

 そのうちわかる事か。

 

 真実ならば、生まれ変わる時は競争倍率が激しそうだ。

 

 さて、今日は一粒万倍日で天赦日も重なった縁起のいい日だ。

 

 ちょっとお年寄りくさい?
こう見えてわたしは占いに目が無い。

 

 お金が現物で存在した時代なら、きっとお財布を新調しただろう。

 

 自転車で少し行けば、ショッピングモールがある。ついでに青魚のお弁当を買ってくれば、今日の夕飯はそれでいい。

 

 今は貧乏という概念も最低給付保障制度、いわゆるベーシックインカムが実現して無くなってはいる。

 

 子供を作ればその分生活は楽になるが、それだけを当てに今生活をしてしまうと高度な教育を受けさせたいと思った時に出来なくなってしまう。

 

 親元に居る、長くても18年間が勝負だ。

 

 上を目指して海外旅行なり、高度な医療を必要とする大病に備えるなり、将来の選択肢を増やすために、たくさんの人が逃した運をわずかでも手繰り寄せてつかみたい。

 

 そんなわけで、これからハンドバッグを買いに行こう。

 

 鳥居をくぐり振り返って軽く一礼しては、やっぱり良い神社だなあと境内の立派な楠木を見上げた。

 

 

この物語はフィクションであり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。架空の創作物語です。

この作品は2024年3月25日にnote.comへ掲載したものです。

 

 意味のない権威をちらつかされても言葉に困る。

 

 

 この先輩でも、一応大学レベルの教育はこなしたらしい。私の言葉の端々に毒があるのはお察しである。

 

 そういう人間でも食うには困らない社会になって本当に良かったのではないだろうか。

 

 

 なぜかって?
 

 それは簡単、実務でボロが出るからだ。

 

 そして、そんな人に限って、やたらとプライドが高い。

 

 するとどうなるか。

 

 

 例えばインターネットが普及する前、それこそ昭和の時代にはお年寄りをはじめ、地域の人を集会所に集める。

 

 そして、数々の商品がいかに素晴らしいか、根性と気合に満ち溢れたスーツに法被はっぴを着た人たちが延々と訴えかけてくるわけだ。

 

 それに気圧けおされつつ、何か買うまではばかられてとても会場を後にできないという、およそ真っ当な商売とは言えない、押し売りが始まるわけだ。

 

 商品も様々、蜂蜜のセットに布団、さらにはネックレスなど、街のデパートで買った方がまだ安く済むはずのものが売れる。違うな、買わせる。

 

 

 じゃあなぜみんなそこに集まるかって?

 

 それも簡単、来場すれば砂糖1kg無料、卵1パック無料でもらえるというチラシと口コミが人を集めるのだ。

 

 何しろ、地域の人々のつながりを裏付けた口コミほど強力なものはない。
え?あなたは行かないのと白い目で見られる。

 

 裏でキックバックか何か貰っているのではないだろうか。

 

 似たような方法で、新興宗教も拡がるわけだ。

 

 

 法律はいつも後、何か命や財産に損害があってから、つまり事件が起こってからしかほぼ対応しない。いわゆるねずみ講と呼ばれる連鎖販売取引、霊感商法や、いかがわしいマルチ商法もそこに含まれる。

 

 消費生活センターなんて、新しい組織の時代だ。

 

 まだ若い、そんなものに流されることだってあるだろうって?

 

 それはそのとおりだが、一度流されて甘い汁を吸ったら最後。逃れられなくなってしまう、麻薬みたいなものだろう。

 

 逃げを図ろうとしても、弱みを握られているほど抜け出せなくなる。

 

 ケータイが普及し、流行り病が世界を脅かした最近の時代まで、地方ではまだそんな商売をギリギリやっている人たちもいた。

 

 妙なものを売る人がいなければいい話だが、残念ながら人を犠牲にしてでも食い扶持を稼がなくてはという時代では、いくら法を整備したところで所詮はイタチごっこだ。

 

 21世紀初頭では?
光で通信ができる時代には、そんなものはもう無かったと?

 

 暗号資産はどうだった?

 

 メジャーなビットコインならまだいい。よくわからない存在するか確かめようもないローカルコインはどうだろうか。

 

 それを未来に対する事業の裏付けだとして、それらに投資を募る人間も少なくなかったという。

 

 もう、買う人間が悪いで済まされてしまうだろう。

 

 

 一方で調達方法にもよるが、在庫を抱える場合、買う人間がいさえしなければ、売る側は破産して終わりである。

 

 このことは転売にも同じことが言える。

 

 

 このように、欲深い人間は別として、最低限の食い扶持を稼ごうと、そうした手法に走る人間を、少なくとも現代では無くすことが出来たわけだ。

 

 友達が多いのはいい事だが、似たような人間の集団ではしょうもない。

 

 勝手な偏見かもしれないが、普段の言動から隣人である先輩をそのような目でしかどうしても見れないのだ。

 

 早くどこかを任せてもらえないかな。十分技術がある人間は、単独で拠点を任せてもらえるようになるらしい。

 

 さて、女性はよほど好きにならない限り、自分からアプローチする攻め手になることは珍しいだろう。

 

 一方で男性は、仮に恋人がいたとしても、自分に自信がある人ほど本能が行動に移させるらしい。

 

 声を大にして言いたい。
モテるためにあなたがやっていることは、たいていイタい。

 

 いい車に乗りたい、それは別にいい。
自分の純粋な趣味と目的であって、下心が無いのであればの話だ。

 

 街中で爆音をまき散らして、人の迷惑も考えずオレイケてる!がどれだけイタくて、とんでもなく迷惑なことか考えたことがあるのだろうか。

 

 吐き気さえしてくる。

 

 SNSだってそうだ。
その人がどんな人をフォローしているのか、傾向を探ってみたらいい。

 

 

 淡々と自分が学んでいることをただ投稿しているだけのように見えて、その実、興味を持ってもらいたい女性ユーザーをフォローし漁っているなんてよくある事だ。

 

 意味があるのかよくわからない研究で論文を書いて、所属する大学で賞をもらったとしても、ただの身内ネタの範囲に過ぎない。

 

 後輩が自分の研究を根拠に論文を書いてくれたら、そりゃ嬉しいだろう。

 

 キャバクラのお姉ちゃんならきっと、手放しでスゴイって言ってくれるさ。商売だからな、よかったな。

 

 そうして、仕事しながら自慢話を延々と聞かされる、ある意味ものすごく大変なスキルを身に着けているような気がする毎日に、とことん嫌気がさしていたのだが、ある拠点を任されていた人が妊娠して子供を育てるために辞めるという話を聞いた。

 

 どうやら、うまくいけばそのポジションに食い込めるかもしれない。

 

 ただ、そのためには新しい機材を発注して、搬入、検品して据え付けまで一人でできるようにならないと難しそうだ。

 

 まだ入社して半年ちょっと過ぎたくらい。

 

 私と同じようなことを目論もくろんでいる人はきっと他にもいることだろう。

 

 この自慢話ばかりの先輩を除いて。

 

 今の時代でも、キャバクラという水商売は繁華街に存在する。

 

 脂ぎったおっちゃんたちの相手をするお姉さんたちもさぞ、大変なんだろうなと心から尊敬の念を抱かずにはいられないのだった。

 

 

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この物語はフィクションであり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。架空の創作物語です。

この作品は2024年3月23日にnote.comへ掲載したものです。