「今回は世話になったようで、ありがとうな。
これ、ちょうどもらってきた物だから喰ってくれ。」

 

 

「そうか、悪いな。」


「いいのかい?」

 

「ああ、そこまで気が回って無かった。
感謝してるよ。」

 

「なあに、お互い様だって。」

 

 

 昼間の一件の後。

 

 

 お隣のご夫婦に師匠がお礼を言っているところを、半歩後ろでほうき片手にじっと聞いている。

 

 

「よくやったな、メル。」

 

 

 いえ、ご主人のおかげで助かりました。

 

 

「ほんとに賢い弟子を持ったもんだ。
羨ましいよ。」

 

 

「俺も運が良かったと思ってるよ。」

 

 

 あまり師匠という存在は、自分の家族や弟子を良く言うものではないのかもしれないと勝手に思っていたが、こう言われるとここに居ていいんだと思えてくる。

 

 

「で、そいつは結局どうだったんだ?」

 

「ああ、ノスの流れ者だろうって話だ。」

 

「それだけか?」

 

「わからん、しばらく西の商館に拘留するそうだ。」

 

「そうか。」

 

 

 後でゆっくり聞いた話だが、確認のためにこっそり呼ばれたボウノのおやじさんも知らない顔らしい。

 

 

 うちが両替をやっていることは見た目にはわからないはず。この辺りの店の紹介ならまっすぐやって来れても不思議ではないが。

 

 

 まあ、子供一人相手ならいけると声をかけてきたのは間違いないだろう。

 

 

「なあ、メル。」

 

 

 はい、お師匠。

 

 

「すまなかったな。」

 

 

 いいえ、ただ…。

 

 

「ただ?」

 

 

 なんだか、こういったことが続いている気がします。

 

 

「そうだな。
この時期は余計にこうなるんだろうな。」

 

 

 その、警備兵みたいな人たちはいないんですか?
この前なんか本当に誘拐されるかと思いましたし。

 

 

 うーん、と師匠が頭をかきながら言う。

 

 

「政治が絡んでるからなあ。
少し話をしてみるか。」

 

 

 アレクくんが走り回るようになったら、さすがに心配だと思います。

 

 

 "アレク"は師匠の息子さんの名前だ。
師匠が珍しく、うっという顔をしている。

 

 

 おそらく、この街の危なさについては誰もが言いたいことがあるだろう。ただ、事情が複雑なので誰も言い出せないだけだ。

 

 

 どうかしたら、街を二分するような争いになるかもしれない。

 

 

 商人団体の裏には周辺各国の存在があるため、どこかの国の間接的な支配と見て取れる状況になると、間違いなく揉めるだろう。

 

 

 あのノスから来たと思われる人物も、本当の目的は何なのか全くわからないときている。

 

 

 ただ、僕はもうあんな思いをするのはごめんだ。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年8月26日にnote.comに掲載したものです。

 

「多くの人は、自分の人生に意味があったと思いたいと思うよきっと。」

 

 

  二人そろって、おじいさんの声が聞こえた気がしたあの後も、 少しだけのつもりでお酒を飲みつつ、話を続けている。

 

 

 最近の情報交換と言えば聞こえはいいが、また先輩の話に戻ってきた。言っちゃ悪いが、厄介な人の話はどうしても盛り上がってしまう。

 

 

 その流れで由美さんがそんなことを言う。

 

「だってさ、自分の生き方に満足している人なんて世界にどれだけいるんだろうって思わない?」

 

 

 そうだなあ。

 

 

「気づいたら年だけ取りに取って、振り返ったら自分は何をやってきたんだろうって直視したくないじゃん。」

 

 

 人それぞれではあるかもしれない。

 

 

「昔はバトンリレーみたいに自分が受け継いだものを、無事に後の世代に受け継がせればいいような選択肢しかなかったと思うけどね。」

 

 

 ああ、何が言いたいのか見えてきた気がする。

 

 

 日本人は確かに苦手だろうな。
例えば何か自分で作り出して、世の中に影響を与えうるものを残すこと。

 

 

 そのためには、周囲が何をやっていようが、どう言われようが、ひたすら自分の道を信じて突き進むこと。

 

 

 犯罪は論外だが。

 

 

 実際こう言っても、何をしたらいいのかわからない人の方が多いだろう。

 

 

 だからこそ指示待ち人が多く、むしろそういう人が多数派であるために、常識が軒並みそちら側に寄っている傾向が強かった。

 

 

 何なら、妬ましく思い足を引っ張る人も決して少なくはない。

 

 

 まあともかく、という事は指示を受けて動くことを得意とする人がほとんどだろう。

 

 

 責任も、指示を出した人物のせいになる。

 

 

 先の大戦で日本人はどうだったか。
そのあたりも考えると見えてくる。

 

 

 由美さんは、あの先輩がわたしのように拠点を任されたとしても、パニックになるだけだろうねと続けた。

 

 

「一人だけでもそうなるだろうし、仮に部下や後輩がチームで、その先輩くんについたとしても、まともに機能しないと思うけどな。

チームまるごとパニックになるんじゃない?」

 

 

 たしかに、仮にわたしがそのチームに加えられたとして、あの先輩が一体どんな指示や行動をするんだろうか。

 

 

 想像してみると面白い。

 

 

「抽象的な言葉を断定的に使う。
自信ありげにその瞬間は見えても、結局何を言っているのか考えているのか今いち伝わらない、そんな上司になりそうだよね。」

 

 

 それは周りがとても迷惑するだろう。

 

 

 むしろ、責められそうになったら、はっきり言っていない事を盾に、言い逃れを決め込みそうである。

 

 

 オレはそんなことを、そんなつもりで言っていない、と。

 

 

「でも、そうやって何かをごまかしごまかし生きていると、振り返った時に何も残っていないって気づくときが来るのよ、きっと。」

 

 

 それで、自分の人生に意味があったと思いたいと?

 

 

「子供がいればせめて救いにはなるんじゃないかな。」

 

 

 ああ、そうか。

 

 

「だから満たされていない人ほど、自分の人生に意味があったと何かを頼りに強引に思いに行くんじゃない?」

 

 

 本当に意味がある生き方をしているなら、すでに満たされているだろうから、他人や周囲に何かをまき散らす必要も無ければ、死ぬ瞬間まで何かに没頭するくらい、あまりにも時間が足り無さそうだ。

 

 

 一日が48時間あったらいいのに。

 

 

 そう日々を充実にする人たちは、あの先輩のように何かちょっとした資格を取っただのなんだので、いちいち認めてもらうべく誇示したりしない。

 

 

 そんなことをする必要も無ければ、暇もないだろう。

 

 

「きっと父はそんな人たちをたくさん、たくさん見送ってきたんだよ。」

 

 

 おじいさん、つまりは由美さんのお父さんだが、最後まで自分の仕事として向き合ったという。

 

 

「母もね、結局最期はそのひとりになったんだ。」

 

 

 月が明るく照らす庭から鈴虫の音を背景に、
由美さんが寂しそうにそうつぶやく。

 

 

 今日の夜は特に長くなりそうだ。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年4月20日にnote.comに掲載したものです。

 

 

 

「やあ、今やってるかい?」

 

 

 ああ、申し訳ありません、今師匠は外してまして。
…何かお探しですか?

 

 

 

 

「ここが一番良い両替をしてくれるって聞いたんだが、、」

 

 どなたかのご紹介ですか?

 

「ああ、西の門近くのボウノって店のおやじに聞いたんだ。」
 

 少々お待ちくださいね。

 

「ああ。」
 

 

 奥さまに相談しないと。

 

 テントが並ぶ露店通り、裏は在庫を置いたり、簡単に寝泊まりできるスペースになっている。

 

 

 隣や裏とは仕切られており、一応のプライバシーは保たれていて、夏を中心とした温かい時期は大半の時間をテント裏で過ごす人も少なくない。

 

 

 街の中心は地価が高いため、先日おつかいで行ったはちみつ漬けのお店のような高価な品を取り扱うようなお店、木造や石造りの建物が並ぶ。

 

 

 安全だが、その分お金を持っているとみなされるため、出入りする人間も含めて目をつけられると後が厄介になる。

 

 

 

 そういえば奥さまのアンナさんも、街はずれの自宅にいるのだった。

 

 

 もう冬が近いこの時期、まだ小さな息子さんが風邪をひかないようにと、暖かくなるまでは出て来られないだろう。

 

 

 仕方がない。

 

 

 

 お待たせしてすみません。
あいにく、扱える主人がおりませんで。

 

 

「今、お前さんひとりかい?」

 

 ええ、と言いかけたが何かが変だ。
いえ、そうではなく現金を持つ師匠がいないだけです、と絞り出した。

 

 

「…その布は売り物かい?」

 

 

 テントの端に積む布の束を指さして言う。これは肌触りが良い綿布で、服に加工する職人に売るものだ。

 

 

 買うと言っていた服職人が、どんな事情か母国へ帰ってしまっているため、宙に浮いている。

 

 

 師匠が確か、銀貨50枚だと言っていた。

 

 

 だけどなあ。

 

 

 この布は事情があって取り置きしているものなんです、と返事をする。

 

「それでいいから交換してくれないか?」

 

(ええ?困ったな。)

 

 ええと、お支払いは?

 

「…ノスの銀貨だが、金貨もあるんだ。」
 

 

 そうして、ずいっと布袋を出したかと思えば、なにやら見たことがない銀貨と金貨を一枚ずつ取り出して見せてくれた。

 

 

 ううん、わからない。
師匠が出かけて一刻、そろそろ戻ってくるはずだ。

 

 

 北風がふっと抜けたところで、うう寒いなと周りを見渡す。
隣にも、何なら向かいにも大人はいるので、何とかなるかもしれない。

 

 

 うう寒いですね、ノスからのおいでですか?

 

「そうだ、今夜はこのメイサで宿を取ろうと思っていてな。」

 

 もう宿はお決まりで?

 

「いや、その前に両替せんと宿が取れんのだ。」

 

 

 それはそうですね、
このメイサといえば肉とパスタ料理が美味しいのですが、ボウノではいかがでしたか?

 

 

「ああ、美味かったよ。肉と合うんだよな。」

 

 

 お支払いはその、どうされたので?

 

 

「この銀貨で支払ったさ。」

 

 

 そうですか。

 

 

 ちょっとお待ちを、隣のお店は僕の親戚なんです。
僕ではやはりどうにもできませんので、、と言いながらお隣のご主人へ懸命にパタパタと手を振る。

 

 

「…どうした?」と隣のご主人が出てきてくれた。

 

 

 銀貨と金貨で布を買いたいとおっしゃっているんですが、ここのお金じゃなくてと事情を話す。

 

 

「そうかお客さん、そういやあの布は買い手が決まっているとこの店の主に聞いていてな、あっちに良い店があるから連れてってやるよ。」

 

 

 そう言うと、奥さんに声をかける。

 

「おい、ちょっとこのお客さんの道案内に行ってくるから、店頼むわ。」

 

「あいよ」

 

 すると、お客さんの顔が少し青ざめて見える。

 

 

「いや、やっぱりいい。
他の両替商をあたってみるよ。」

 

「遠慮するなって、それも紹介してやるよ。」

 

 

 がははとがっちりお客さんの腕をつかんで、街中へと消える。

 

 

「危なかったね、いい判断だったよ。」
そう奥さんから声を掛けられて、ありがとうございますと頭を下げた。 

 

 

 もう、師匠早く帰ってきてください。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年8月25日にnote.comに掲載したものです。

 

 

 

 由美さんに先輩の話をしている。

 

 

 あまり、愚痴や人の事を話題にしたくないし、することもないのだが、例の事件の話の流れからつい、そんな話になったのだ。

 

 

 つい、というより、それも人間関係なので仕方が無い。
この際だから、思いっきり聴いてもらう事にしよう。

 

 

 こうして、クセの強い人間の噂というものは本人の知らない所で、様々な人の話のネタにされて広がっていく。

 

 

 コミュニティの外だ、万に一つも本人と交わることが無いだろうと散々言っていると、どういうわけか巡り巡って本人に伝わることもあるようだ。

 

 仕方がない。

 

 打ちのめされればいい。

 

 

 さて、おじいさんがいなくなってしまってから、こうして由美さんと夕食を共にするのが多くなった。

 

 

 今日は豚肉の生姜しょうが焼きを、おみそ汁とごはんで頂く。

 

 

 おじいさんが好きだったらしい。

 

 

 匂いに誘われてもしかしたら帰ってくるかもしれないね、なんて話をしながら二人で台所に並んで立っていると、初めてこうしていた時に、まるでお姉ちゃんが出来たような気がして嬉しかったことを思い出す。

 

 

「気持ち悪いけど、早めにそういう人だって気づけて良いんじゃない?」

 

 なるほど、そういうフィルターのような考え方も良いな。

 

「人って裏でどんなふうに言われてるかわからないからね。そういう人もいた方が、職場や集団としては助かるなんて思っていたりするのよ。」

 

 どういう事?と聞いてみる。

 

「え、だってさ、周りの人も、きっといい気持ちはしていないでしょ。だから、誰もやりたがらない仕事とか、めちゃくちゃな分量をあてがったりとか良いように扱うのよ。」

 

 ああ、そういう事か。

 

「嫌なら勝手に辞めていくだけだしね。結局さ、どんな存在より人間が一番恐ろしいかもね。」

 

 そこまで聞いてしまうと、余計に恐くなるな。

 

「だから、ヘイトを集める人が一人でもいてくれると、その間、他の人達は安心して過ごせるのよ。何なら結束が強まるくらい。」

 

 

 そういえば、何かの時に学校に行きたくなくて自分でこの世を去ることを選んだ子の夢を見たことがある。

 

 

 妙にその子の意識とシンクロしていて、普段どんなことをされているのかまで、手に取るようにわかってしまうのが苦しかった。

 

 

 ただこの時は、決してその子が悪いわけではなく、運悪くターゲットになりやすい存在だっただけだ。

 

 

 常に1人で居たがるような引っ込み思案な子だったな。

 

 他人事とは思えずに、ほんとうに悲しかったのを思い出す。

 

 

 わたしは今でこそ藤沢さんと仕事をしている状態だが、今まで淡々と時が過ぎていくのを忘れるくらいに一人で過ごすことが多かった。

 

 

 だから、由美さんが語るそういう認識は新鮮だ。

 

 

 そしてなるほど、むしろそういうケースは案外、表立って問題にされていないだけで、実際かなり多いんじゃないだろうかと思う。

 

 

 給料依存の社会時代なら、それこそだっただろう。

 

 

 現代では、昔の集団学校教育が廃止されて、インターネット回線を活用した個別教育にシフトしているが、教務センターの学習室に友達と連絡し合って通う子だっているしなあ。

 

 

 かと思えば、わたしがそうだが、淡々と認定試験を受けてさっさと高校クラスまで進めたいと思う人間もいるし。

 

 

 由美さんはどちらかと言えば前者タイプだろう。

 

 

 まだ、その頃は今の制度に移行していなかったので、中学、高校と弓道部で活躍していたらしい。

 

 

 価値観というよりは、人間がそれぞれの人生を自分のペースで進められるようになった、そのことが大きな価値に思えるとともに実感する。

 

 

 わたしだって考えてみれば、あの子と同じ境遇だとしておそらく、耐えられず、かといって逃げ場所も見つけられず、ついには同じ道を辿たどったかもしれない。

 

 

 悲劇を無くしたければ、お互い関わらないという選択肢も必要で、人間という恐ろしい生き物の世界は、ある意味それだけ難しいことを証明しているのかもしれない。

 

 

 

 食器を二人で片づけ終えて、外から聞こえてくる虫の音をお茶を飲みながら聞いていると、ただいまとおじいさんの声がした気がした。

 

 

 わたしだけかと思ったら、由美さんもそうだったらしく、えっと顔を見合わせる。

 

 世界はまだまだ、奥が深いのかもしれないな。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年4月19日にnote.comに掲載したものです。

 

 

「あらお帰り、どうしたの?」

 

 師匠の奥さま、アンナさんがテントの合間という意外な隙間から現れた僕に少し驚いている。

 

 

 

 

 すみません、と簡単に経緯いきさつを話す。

 

「危なかったわね、もう冬が近いから余計にうろついているのね。」

 

 そう声を掛けられると、恐ろしさと言葉にならない安心感でふと目からあふれるものが頬を伝う。

 

 そのまま声にならない声で押し殺したように泣き入ってしまった。
情けない、もう小さな子じゃないのに。

 

 

 それにつられたのか、奥さまが抱く息子さんも一緒にぎゃああと泣き始めてしまった。

 

 そこからしばらくは覚えていない。

 

 

 少し前の話だ。

 

「なあメル。」
 

はい、お師匠。

 

「この街には、ほかの街みたいには兵士がいないんだ。
なぜだかわかるか?」

 

 

 そういえばここは、なんの国なのですか?

 

 後から振り返っても、我ながら実に不思議な質問だ。
なんの国とはまた現実的に妙だと思う。

 

 

「なんの国か。ははは、そうだな、違いない」

 

「ここはもともと領主もいる、小さいが立派な国だったんだ。」
 

 ええ?今は国ではないのですね。

 

「そうだ。かつての戦争で滅びたんだな。
周囲の国にそれぞれ分割されてしまった。」

 

 もともとの王族の中には難を逃れ、どこかでひっそりと続いているという噂もあるらしい。

 

「しかし、ここは作物が育つような豊かな土地ではない。あるとすれば、各国を結ぶ主な街道がすべて繋がる要所ってだけだな。」

 

 西のイリスに向かう途中の広大な土地は、周辺に住まう人間のお腹を満たす重要な穀倉地帯だ。

 

 東へは険しい山脈がそびえたつが、氷をはじめとした澄んだ水を産み出している。

 

 そして、そこから南へは海へと繋がっており、その向こうにはサウスをはじめとした国々が散らばる。

 

「四方様々な国へ向かうに一番近い場所がこの街、メイサさ。」

 

 

 かつての貿易商人たちが休むためにテントを張り、倉庫を建てて、水やら食糧やら、そのほか生活に必要な物をさんざん溜め込んだのが始まり。

 

 またそれを狙って、周辺の国々がこの地の領有権を争ったらしい。

 

 しかし、各国に属する商人が集まり、取引を行うという名目でさまざまな品々が保管されている場所だ。

 

 

 それぞれが母国に頼むからやめてくれと、それぞれがそれぞれの人脈を駆使して働きかけた結果、連盟が組まれることになった。

 

「その連盟が出来たおかげで、なんとか争いが終わったんだな。」
 

だが、問題がひとつ出てきた。

 

「そう、誰が治安の維持を行うかだ。」

 

 特定の国が兵士を置くと、その国の物となりかねない。

 

 かといって、それぞれの兵士をバランスよく置いたとして、それはそれで小競り合いからの争いが起きかねない。

 

「困った末に、結局はここに住まう商人たちがそれを守るという結論に落ち着いたんだな。」

 

「だから、いざという時はそれぞれの商人団体が抱える私兵が出てくる。また除隊された元軍人もいるのさ。」

 

 そんな今では、様々な事情や背景を抱えた人間が集まる街になった。

 

「まあカオスと言えばカオスだな。この複雑さに耐えられんとすれば、元居た国に帰らにゃ生きていけんだろう。」

 

 そう話してくれた師匠を思い出したのか、こんな泣いている姿なんか見せてしまえば破門になるかもしれないと慌てて我を思い出す。

 

 

 涙をぬぐう。

 

 師匠の奥さま、
アンナさんは優しい。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年8月23日にnote.comに掲載したものです。