「いいかもね。ちょっと考えていい?」

 

 急いではいないようですが、返事は出来るだけ早く欲しいそうです。
由美さんから聞いたままを伝える。

 

 由美さんの活動を応援する人は少なからずいるが、その人たちの中に後継ぎがいないので事業を引き継いでくれる人はいないかという話をしている人がいた。

 

 長らく自治体のごみ収集事業を請け負ってきたが、自身が高齢になるにつれて誰かに譲れたらと考えてきたそうだ。

 

 いち従業員としての立場をあくまで出ない社員に譲るわけにもいかない。要は、混乱なく引き継いでくれる経営者を求めていた。

 

 その話を新たに何かを作る必要があるかもしれないと言うわたしに、ちょうどいいと話をしてくれたのだ。

 

「うちの会社でやるにはちょっと手続きがいるけど、二千万か。」

 

 譲り受けるには高いのか安いのか、わたしにはさっぱりわからないが、社長から「わかった、連絡しておくね」と返事をもらったので、そのまま由美さんに伝えておくことにする。

 

 ゴミの回収もドローンを使って自動で出来ればいいのに。
小さな荷物の戸別配送がようやく実現したばかりなのにそんなことをついつい考えてしまう。

 

 配送の仕組みは簡単で、カバンに着けられるアクリルキーホルダーのような専用電子タグを、各々届けて欲しい場所に置いておくだけだ。

 

 それぞれに専用の複雑なナンバーが割り当てられていて、ウェブで登録すると荷物がどんどん到着する仕組みになっている。

 

 さっさと届いた荷物は回収しないと上に積まれてしまったり、配送不可で持ち帰られてしまうので気をつけておく必要がある。一番良いのは、より広い場所を用意しておくとしばらくは大丈夫だろう。

 

 ウェブで通知先の端末を指定できるので、荷物が到着する前には連絡が入る仕組みになっている。

 

 マンションだとバルコニーがあれば十分かもしれない。
雨対策が施してある荷物は運んでくれるが、それ以外は天気が良くないと運んでくれない。

 

 安易にビニールを用いるのも気を遣う時代だ。
処分するのは簡単だが、燃やすと必ず二酸化炭素と水が発生する。

 

 これ以上の気候変動にさらされることを人類の誰もが恐れる世界になってしまった。

 

 さて、重いものは従来通り配送の人が持ってきてくれる。

 

 大きな要塞のような集合住宅の建設が計画されているが、そこに皆住むようになれば、そういう手間もなくなるのかもしれない。

 

 地球の重力は思うより強力で、ちょっと重い物を持ち上げて運ぶだけでも大変な労力が必要だ。

 

 だから、同じ仕組みでゴミの収集となると急に難しくなってしまう。
基本的に荷が重くなる傾向があって、重量もバラバラで事前に把握しずらく、結局は人の手で回収することになるからだ。

 

 まだ実験の域を出ていないらしい。そんなわけで、鉄の塊の自動車が自由に空を飛びまわるのも、まだ難しいだろう。

 

 気候変動のもう一つの立役者である水蒸気の塊、大きくはっきり山の上にそびえ、浮かぶ入道雲を背景に、決められた軌道を飛ぶドローンの列を見上げながら、いつも一人で入り浸っていた自分の拠点ホームに向かう。

 

 うわあ。これは強めの雨が降るかもしれない。

 

 今日は藤沢さんがいる。

 

 実はもう一つ社長に話してきたことがあった。
その内容を伝えることと、これからを相談をする必要がある。

 

 ほかの拠点と比べればそりゃ規模も小さいし、何しろ一人で何とかなるくらいだから大したことはない場所だ。

 

 だけど、居心地も良ければ中身もそれなりにきちんと整っているはずだ。
それだけ自信を持っているし、わたしにとっては大事な場所のひとつだ。

 

 今では藤沢さんに取られた気分だが、こうして代わりにきちんと作業をしてくれると考えると悪くない。

 

 いい人で良かったなと淡々と作業をしていた藤沢さんが、玄関から入る私を目にすると、おかえりなさいと返事をもらった。

 

 この話は由美さんにも協力してもらったら、早いかもしれない。

 

 人は何らかのストーリーを好むらしい。
もちろんそうじゃない人もいるだろう。

 

 紙の本がすっかり貴重なものになってしまった今、子供も含めてすっかり電子端末に当たり前に慣れてしまった。

 

 小説やライトノベルは昔からあるし、ノベルゲームもおそらくたくさんあるだろう。

 

 もっとボリュームを持たせたらどうなるんだろう。 

 

 シナリオを読み進めていくうえでそれぞれで選択してきた結果に応じた、とんでもなく分厚っいストーリーをひたすら楽しめるようなものがあっても面白いのではないか。

 

 藤沢さんに一緒に考えてもらうか。

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年5月4日にnote.comに掲載したものです。

 

 

 お米の品薄から高騰に拍車がかかっているようですが、一部、その動きを見越して転売目的で大量に安く仕込んでいる人たちの存在があるようです。

 

 

 このお話を書いている令和6年10月上旬現在、そろそろ新米が出回るのではないかと特に深く考えていませんでしたが、まだまだ続くような気がしてなりません。

 

 

 地域によって差はあるでしょうが、お米の産地のひとつとして数えられるわたしの住む地域でも、購入の際の数量制限や、そもそも値段が高い状態が続いています。

 

 

 さあ、困りました。

 

 

 5kg通常のブランド米で3,400円前後と、安定していた時期の倍の値段でお店に並んでいる状態ですから、思いのほか長引きそうです。

 

 

 一方で、外食産業で取り扱う業務用では特に困っていないというお話も。

 

 

 単なる消費者は言うべきは言いつつ、ただ待つしかないのかとそう思えてきました。

 

 

 農水省や総務省のデータを見ていきつつ考える記事をとも思いましたが、時間を喰いそうなので今回はこのくらいにしておきましょう。

 

 

 その代わりと言ってはなんですが、触れておきたいお話をしますね。

 

転売者の存在

 技術の発達とサービスの発展に伴い、マーケットプレイスが身近になり、良い悪いは別にして個人が何かを転売することも不可能ではありません。

 

 

 転売という単語を見聞きしただけで、アレルギー反応が出ちゃうという人もいるでしょうね。

 

 

 しかし、転売者の存在は不本意でありつつもマーケットプレイスの場を提供し上場企業となった会社もありますので、どうやらわたしたち消費者一人一人がしっかりと向き合わなければならないようです。

 

マーケットプレイス

 さて、ここまでお話した転売のお話と直接関係ありませんが、マーケットプレイスといえばAm〇zonやメル〇リなどのサービスが有名です。

 

 

 例えば、Ama〇onで買ったはずなのに、なぜか個人や覚えのないお店から商品が送られてきたり、連絡が来たりして驚いた経験された方も多いのではないでしょうか。

 

 

 それは、Ama〇onが直接仕入れて販売している商品もありますが、そうではない場合、個人や小売店が出品しているため、ほとんどの商品が揃う環境が実現できるという仕組みだからです。

 

 

 しかも、より安く提供できる出品者が優先的に注文を受けるため、早く商品を現金化したい出品者同士で価格競争をさせることも出来ます。

 

 

 したがって、例に挙げたAma〇onのマーケットプレイスでは商品の価格が一定ではありません。

 

 

 ちなみに、誰から買うかを選ぶことも出来るようになっています。

 

 

 マーケットプレイスの場では、商品の売り上げに対して手数料を取ることが出来ますので、サービス提供者にとっては出品者がいくらで仕入れたのかは関係がありません。

 

 

 また、月5,000円強程度の会費を支払うと、マーケットプレイスの倉庫を利用することが可能になり、商品を倉庫に送りさえすれば、注文が入り次第、その倉庫発で梱包から発送まで自動で行ってくれますので、それを活用している方も多いようです。

 

 

 倉庫を使わず自分で梱包、発送を行う方も少なくありません。
送料はかかりますがね。

 

 

 地元の小売店から型落ち品やセール品を一気に買い上げ、障がい者雇用を活用して梱包、発送する個人経営の会社として発展を続けている人もいると、ある大手の電器店の方から話を聞いています。

 

対策

プロモーションを含みます

 

 パックご飯を買っておくのも手ですが、こちらも若干の値上がりを感じて来ました。

 

 

 うちでは切り餅を代用するか、保存をしています。

 

 

 

 基本的にうちは玄米を用いていますので、影響は最初のうちこそありませんでしたが、最近ではこちらも値上がりしてきています。

 

 ただ、むらせさんのソフトブラン玄米は柔らかく炊き上がるので大変おすすめです。

 

 

 そこに、押し麦を加えることでより安く仕上げることが可能になります。

 

 

まとめ

 さて、最近のお米の高騰に関することと、マーケットプレイスについてお話ししました。

 

 転売者の存在がお米高騰の背景というわけではありませんが、それに乗じて出品している人たちがいる事も頭に入れておかなければならないようです。

 

 また、そんな値段で売れるのか!と生産者にとっては新たな発見にもなったかもしれませんから、これまでの常識が多少なりとも変化することは考えておく必要がありそうな気がしてなりません。

 

 

 今回は以上です。

久々にコラムみたいなものを書いた気がします。

 

 もし、今回のお米高騰の話題であなたの良いアイディアがありましたら、何でもいいのでぜひコメントに残してくださいね!🔽🔽🔽

 

 冬になるとこの辺りも雪は積もるが、北から東にかけて南の海に抜けるまで山が囲うため、豪雪からは免れるこのメイサの街は、昔から行き交う人々の休息地として発展してきた。

 

 

 特に北の山々が無ければ、真冬は氷の下に沈んだだろう。

 

 

 秋から先は西との行き来が盛んになる。それから春まで待って、改めて東や北に旅を再開する人たちも少なくない。

 

 

 また、本格的な冬に入る前に訪れる西の祭りを見物に東の険しい山々を越えてきた人たちも、このメイサで一息ついて出発する習慣がある。

 

 

 ところで師匠、
東の山の向こうにはこのメイサのような街があるんですか?

 

 

「街というか村があってな、
その先まで降りれば少し大きな街があるぞ。」

 

 

 へえ、どんな街なんだろう。

 

 

「そこから川を下る海に出ることができるが、海沿いに大きな街がある。
そこが東の国の王都だな。」

 

 

 王都!なら相当大きな街なんですね。

 

 

「そうだなあ、イリスくらいはあるな。
その海の向こうにはイナホと呼ばれる島国が浮かんでいる。
俺もさすがにそこまで行ったことは無いがな。」

 

 

 イナホとは不思議な名ですね。

 

 

「そう聞かれるとそうだな、どんな由来があるのやら。
ただ、そこの国の技術は目を見張るものがある。」

 

 

 へえ、どんなものがあるんでしょうね。

 

 

 すると師匠は周囲に目配せたうえで内緒だぞと前置きをする。

 

 

「例えば、この指輪なんかそうさ。」

 

 

 え?

 

 

 師匠の右手中指の指輪がそうだという。
何の変哲もない皮のリングだ。

 

 

 よく見ると小さな透明の石がひとつ、くっついている。

 

 

「気づいたか、石がついているだろう?」

 

 はい。

 

「これがないと、幅広く両替商をするにはちょっと不便なんだ。」

 

 

 どういうことです?

 

 

「まあ、そのうち見せる機会があるだろうから、楽しみに待っとけ。」

 

 

 師匠がふふんと鼻を鳴らす。

 

 

 両替商と言えば師匠、ここのお金は誰が作っているんですか?

 

 

「お?いいところに気がついたな。」

 

 

 ずっと不思議だったんです。

 

 

「ここがもともと国だったのは話をしたな。」

 

 

 はい、かつての戦争で滅んだと。

 

 

「そう。実はそのまま元の通貨を使っているだけだ。」

 

 

 ええ?そうなんですね。あれ?
でもそれだけだと数が減っていくだけな気がします。

 

 

「お前が言った警備兵と同じ事情さ。
作れないんだ。」

 

 

 作れない?んですか?

 

 

「難しいよな。
お金も金や銀の含有量で取り引きされるのが主流なんだが、まだ連盟はあっても警備兵の話すらまともに決められない。」

 

 

 ええ。

 

 

「なのに、作るなんて話ができると思うか?」

 

 

 もしや、揉めるんですね。

 

 

「それどころじゃない、下手したら戦争になりかねん。
自由にお金を作れる権利は大きい。」

 

 

 あ。

 

 

「含有量をちょろまかすことだってできる。
いったい誰がどうやってそれを止める?」

 

 

 そうか…。

 

 

「だから一緒なのさ、複雑だろう?」

 

 

 複雑ですね。

 

 

「このメイサがここまで不思議なバランスで、しかも発展するとは誰も思っていなかったんだろうな。そりゃそのうちどこかの国に属するだろうと思っている人間も少なくないはずだ。」

 

 

 でも、ほかの国が黙っていないと。

 

 

「そうさ。なにせ各国の資産が集まってるからな。」

 

 

 ややこしいです。

 

 

「ややこしいだろう?」

 

 

 師匠が続ける。
 

 

「だが、だから良いのさ。」

 

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年8月27日にnote.comに掲載したものです。

 

 

「母の姿はとてもきれいだったんだ。」

 

 

 なぜ、ちゃんと最期を看取らせてくれなかったのか。
そう母の遺体の傍で、そして心の中で、何度も責めた。

 

 

 そうしているうちに、きっと言わなかっただけで相当苦しかったんだろうなという思いが込み上げてきた。

 

 

 痛みは本人にしかわからないから。

 

 

 そう由美さんは、これまで溜め込んでいた大きなものを一つ一つ苦しみながら吐き出すように話す。

 

 

「安置所でさ、眠っているようだった。
一目見てわかったよ、やっと解放されたんだなって。」

 

 

 由美さんは真実さんのすべてを知らないだろう。知る人といえば、あとは旦那さんのおじいさんくらいだった。

 

 

 答え合わせなんかできない。
異物扱いされるのはもうごめんだ。

 

 

 本当に解放されたんだろうなと思える。
もし次があるのならもっとこう、穏やかな人生でありますようにと祈らずにはいられない。

 

 

 わたしが知るあの光景が、真実さんとその娘さんのものだとすれば、あまりにも周囲に翻弄されすぎた人生だ。

 

 

 子供の頃とはいえ、ちょっとした軽い気持ちがまさかここまで、それも本人だけではなく、周囲の人たちの人生までも狂わせてしまうとは、いったいどれだけの人間が想像できるだろうか。

 

 

 そうだったんだ。
由美さんにかける言葉は、この一言で限界だ。

 

 

 人は死んだらさ、どうなるんだろうね。
少し間を置いた後、空に瞬く星を見ながら由美さんにそう聞いてみる。

 

 

 やっぱり、少し不思議そうな表情をされる。
あまりにも唐突すぎたか。

 

 

『身近な人ならそばにいて欲しいなあ。』

 てっきり、いつもの調子でそんな現実的な答えが返ってくるのかと思っていたら、意外にそうではなかった。

 

 

 消えてしまうのかな、代わりにそう言ってみる。

 

 

「それはなんだか、嫌だねえ。」

 

 

 そういえばさっき、おじいさんの声が聞こえたような。

「やっぱり?見えなくてもいて欲しい気はするけど、さすがに気のせいじゃないかなあ。」

 

 

 そう言いながら軽く笑う。

 

 

「母と会えたかなあ。」
 

 

 きっと会えて今頃、二人して紅葉が色づくのを待ってるんじゃない?

 

 

 由美さんがまた笑いながらそう続けた。

 

 

 だとしたら素敵だなあ。
思わず羨みのため息が出てしまう。

 

 

 そういえば、彼氏さんとはどうなの?
そんな相手に恵まれたらいいなと思いながら尋ねると、今触れてはいけない話だったかもしれないと少し後悔した。

 

 

「任務だから、来れなかったね。」

 

 

 わたしは会ったことが無い。
年に数回は会えているらしいが、決まって由美さんが会いに行くようだ。

 

 

「最近、分かんなくなってきたんだよなあ。」

 

 

 どういうこと?

 

 

「ちゃんと付き合ってるのかなあって。
父に会わせたかったけど、結局最後まで会えなかったしね。」

 

 

 本当に忙しいんだね。

 

 

「どうなんだろうね。最近、父に見せたくて無理やり付き合ってただけかもって思えてきてさ。」

 

 

 由美さんが続ける。

 

 

「それはそれで彼に失礼だなと思えて。
本当に好きなのかなあ。」

 

 

 好きになろうとしていただけ。
そうなりきれなかった自分にもやもやしているらしく、もはやおじいさんもいなくなってしまった中、自分の本当の気持ちに気づいた。

 

 

 だが、まだ断言も出来ない。
そう言いたいのだろう。

 

 

 まだ、本当に誰かを異性として好きになったことが無いわたしにとって、由美さんのそれだけでもなんだか羨ましく思えた。

 

 そして、由美さんは藤沢さんと出会う事になる。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年4月27日にnote.comに掲載したものです。

 

 

 

 由美さんのお母さんは、肝臓がんだったという。

 

 

 貧血のような、めまいのような、まあ寝ていればそのうちよくなると言い、一日横になっている日も少なくなかったが、ある日たまたま行った血液検査を皮切りに見つかった。

 

 

 ただ、その時にはすでに遅かったらしい。

 

 

 転移している可能性もあって、医師はさらに精密な検査を勧めたが、真実さんは痛み止めの薬を希望するだけでそれ以上は望まなかったという。

 

 

 由美さんが二十歳を過ぎたあたりだった。

 

 

 真実さんは50代の半ば、旦那さんのおじいさんはさらにそのひと回り上という年齢差のある、それぞれに紆余曲折ある人生の道半ば、遅くに授かった一人娘を持つ夫婦。

 

 

 おじいさんはすでに定年退職をしていて、年金制度がちょうど廃止になってすぐ後の事だった。

 

 

 健康保険制度は財団化し、国民皆保険制度は事実上廃止されている。
どこをどう頼ったらいいのかそれまでの常識が完全にひっくり返った社会の中、たったひとりの妻の身体に起きた大事。

 

 

 当時の由美さんの目に映る父は、なんとしても救いたいという思いに無情な鉄槌を下す社会を憎みこそしないものの、やるせなさと自身の無力さを嘆いていたという。

 

 

 そして、死を受け入れた様子の妻を何とか説得したい。
これからも変わらず生きていて欲しい。

 

 

 当時のおじいさんは、自身も七十歳近い体で、役所や財団、そして共済組合からの情報収集で日々奔走していた。

 

 

 

「母はね、泣いて嫌だという私に、今までが奇跡だったのよって優しく言うんだ。あなたはお姉ちゃんの分まで、出来すぎるくらいにしっかり育ってくれたって。」

 

 

 それでも、あきらめて欲しくなかった由美さんは、学校を辞めてでもお母さんに出来ることをしたいと訴えたという。

 

 

「そしたらね、怒るんだ。でもその後には必ず笑顔で、人はいつかどこかで必ず死ぬんだって。今じゃないって思う人もいるかもしれないけど、私はそれが今だとしか思えないって。」

 

 

 具合が悪そうに横になる真実さんに、おじいさんは毎晩のように涙ながらに語り掛けたという。

 

 

 まだまだ、一緒にいてくれよって。

 

 

 由美さんは、それはもう冷静には聞いていられなかったと涙声で言った。

 

 

 

 当時入っていた共済組合の医療補償では、入院補償や手術治療補償があったものの、結局それらを用いても延命が限界。

 

 

 もうすぐ60歳を迎えようとしていた真実さんには財団からの支援も期待が出来ず、一応申請はしたもののやはり却下された。

 

 

 つまり、最新の投薬や、先進医療を望むのであれば、多額の費用を自費で負担する必要があるのだ。

 

 

 おじいさんが自身の退職金を全額投じても、向こう一年生き延びることができるかという程度。

 

 

 あとは由美さんが、何らかの融資を受けて費用に充てるしかない。

 

 

 もうすでに、そこまで追い詰められていた。

 

 

 

「ある時ね、お母さんが私を呼ぶんだ。そして、手を握ってさ。お父さんをよろしくねって。お嫁さんにいく姿を見届けられないかもしれなくてごめんねって。」

 

 

 泣くことしかできなかったという。

 

 

 いやだよって。

 

 

 

 調子がいい時は近くの公園まで散歩をすることもあった。
春は桜が花をつけるし、鳥の声が心地いい。

 

 

 寝てばっかりじゃ歩けなくなるからねって言いながら、日々確実に弱っていく姿に心が締めつけられる思いでその姿を見送りながらも、前向きに日々を生きる母にしっかりしなきゃと自分に言い聞かせていたという。

 

 

 

「そしたら次の日ね、ちょっと買い物から帰ってきたらいなかったからさ。散歩かな、大丈夫かな見に行こうかなって、見当たらなくて。」

 

 

 いつものように相談に出かけているおじいさんに連絡をするも、「入れ違いで帰ってくるかもしれないから、落ち着いて少しだけ待ってみよう」という話になって、由美さんは家で待っていた。

 

 

 

 しばらくして警察署から電話がかかってきたという。

 

 

 「お父さんをよろしくね。」

 

 

 由美さんにとって、ちゃんとした母と子の会話では、その言葉が最期になってしまった。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2024年4月24日にnote.comに掲載したものです。