「ええと、ちょっとお話を聞かせてもらってもいいですか?」

 

 

 寒いが行く当てもなく二人して公園で話し込んでいると、申し訳なさそうに誰かが声をかけてきた。

 

 

 ほら、来た。

 

 

 

 周りの家の明かりに赤い光がくるくると周囲を照らしている。

 

 

「やめてよ、もう。」

 

 

 世間の風当たりも今の季節の北風同様強いようで、どうやら近所の人に通報されてしまったらしい。

 

 

 驚いたとしても、逃げると余計に厄介なことになる。

 

 

 こういう時は複数人で事に当たるからだ。

 

 

 

 もう一人、二人とやってくるようで、冬の寒空のお茶会もどうやらそろそろお開きの時間らしい。

 

 

「未成年じゃないんだね。」

 

 

「どこに住んでるの?」

 

 

「身分証ある?」

 

 

「下の駐在所で話聞くから来てもらっていいかな。」

 

 

 

 そんなわけで、近くの駐在所まで乗せられてきたわけだが、事件性が無いとわかると担当さんを残して彼らはまた巡回へと向かっていった。

 

 

 パイプ椅子に腰かけているとブランケットを使いなさいと手渡され、脇には大きな石油ストーブ、ヤカンが乗っていていかにもそれらしい。

 

 

「意外と物騒だからね、あんなところでどうしたの?」

 

 

 保護されることに多少覚えがあるのか、最初は黙っていた彼女も事のいきさつを話し始めた。

 

 

 警察の方も通報があったからにはこの顛末を記録して報告をしなければならないらしく、終われば彼女の身内に迎えを呼ばないといけないので話を聞いているという訳だ。

 

 

 また、彼女の身体の痣を見逃すような彼ではなかったらしい。

 

 

 ブランケットを渡すときに気になったのだろう。

 

 

 

 温かい場所と、飲み物と、意外と親身になって話を聞いてくれるひと回りほど年上らしい駐在さんの彼に、どうしてこうなったのかを話す彼女は、久しぶりに楽しそうな感じがした。

 

 

 高校時代に子供を産んだという話には驚いていたようだが。

 

 

 9歳の娘は小学校に通っているが、何しろお金がかかる。

 

 

 保護はされているものの、同学年の子たちにいじめられないように、それなりに学校生活と日常生活を両立させるためには、他の男を頼るしかないと考えての事だったらしい。

 

 

 そうすれば、自治体から給付される保護費のほとんどを娘のために使うことが出来るからだ。

 

 

 よくわからないまま親になり、見た目は大人になってしまい、目の前の事をとりあえずの思いつきでこなしてきた。

 

 

 さて、話を聞いている駐在の彼はというと、どうしたものかと頭を抱えているようだ。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2025年3月8日にnote.comに掲載したものです。

 

 

 ――そか、大変だったね。

 

 

 ぽつりとそっと、ひとこと彼女に言葉をかける。すっかり冷え切っている体に上着をそっとかけてあげるように。

 

 

 

 目の前にはこんなにも豊かな文明が放つ光であふれているというのに。

 

 

 小学生半ばの子供がいるには若すぎる年齢、それでも驚かなかったのは外見がそう見えなかったからだ。

 

 

 それほどに環境はひとりの人間のすべてを変えてしまう。

 

 

 

 大人にならないうちに子供を持った。

 まだ子供だった彼女にはただただ大きな責任でしかなかったらしい。

 

 そして彼女の家庭にとってもまた、とても受け入れられるものではなかった。

 

 気づいたら、まるで大きな石を広さも深さもわからない池に投げ入れてしまったような惨状で、自他ともに収拾がつかなくなったという具合だ。

 

 

 

 わたしがかけた一言がきっかけかはわからないが、静かな夜の浜辺に打ちつける穏やかな波のように彼女は泣き始めた。

 

 

 悔しいのか、悲しいのか、わたしにはわからない。

 それは彼女本人にしかわからないもの。

 

 

 

 この公園にはベンチもあるのだが、彼女はブランコを選ぶ。

 

 

 もしかしたらこれに乗りながら話すことで、自分の話をそんなに重く受け取るなという小さな強がりだったのかもしれない。

 

 

 

 また、こんな誰もいない夜の公園にいたら危ないといえば危ない。

 いざとなれば、その鉄の塊はとても良い武器になるだろう。

 

 わたしは今彼女の傍にいることしか出来ない。

 

 ただそれで、少しでも気が楽になってくれればいい。

 

 

 ひとしきり泣き終えた彼女を見届ける。

 

 この状況にはかつて覚えがある。

 すっかり葉を落とした紅葉の木もある。

 

 それとわかるのは、木を取り囲むように敷き詰める芝を隠しているから。

 

 ここが後に、多くの被災者を弔う霊園となるのは彼女も知らないだろう。

 

 いやどういうわけだか、この場所には何かと縁があるらしい。

 

 

 そもそもなぜ、わたしはこうしているのだろうか。そこも併せて考えると、今のわたしの役目が理解できた気がする。

 

 

 

 ねえ。

 

「なあに?」

 

 涙声混じりに小さく彼女が返す。

どう言えばいいかわからないが、やるだけやってみるか。

 

 もう少しここで待ってなよ。

 

 

「誰を?」

 

 わたしじゃ出来ない事を出来る人が来るから。

 

「なあにそれ。」

 

 きっとあなたを救ってくれる。

 

「なんで?」

 

 さあ?

 

「わけわかんないんだけど。」

 

 

 うーん、そうだよねえ。

 まあ、それまでは一緒に待ってるからさ。

 

「どうせ行く所ないしなあ。」

 

 

 この彼女の言葉には違和感を感じる。

 

 なぜその、子供と一緒にいないのか。

 

 

 彼女のその絡みに絡まった事情はのちに知ることになる。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2025年3月1日にnote.comに掲載したものをAmebaブログ用に加筆修正したものです。

 

 

 

 

 10日未明、トランプ大統領が一部関税を一時停止すると発表した。

 

 諸外国に対する貿易輸入関税は理不尽だというように捉えられたが、当然これには見た目以外にも大きな目的があることを見誤ってはならない。

 

 アメリカ合衆国の産業を復興させたい、もちろんこれが大きな目的だろう。

それら見た目以外の目的とはいったいなんだろうか。

 

国ごとの社会システムの違い

 世界には大きく分けて二種類の社会システムが存在する。

 

 ひとつは「西側」と呼ばれる、資本・自由主義社会だ。日本もこのグループに属する。

もうひとつは「東側」と呼ばれる、社会・専制主義社会だ。ロシアや中国が該当する。

 

 大きな違いは、人間個人と社会のどちらを優先するかだ。

 

 自由主義社会の場合、個人の表現の自由や職業選択の自由、宗教の自由など人間個人の自由に対する制限の方が少ない。

 

 つまり、よほどのことをしない限り身柄を拘束されることが無い。

 

 反対に、社会主義または専制主義社会の場合、ほとんどは表現の自由が規制されている。

国の体制や、政権批判を行おうものなら直ちに身柄を拘束され処罰されるといった具合だ。

 

 こうなると下手なことは口に出来ない。思想再教育の対象とされ、強制収容所に送られ強制労働を強いられるだろう。ひどければそのまま帰ってこれない人もいる。

 

 かつて敵対した少数民族や集落にもその手は及び、占領併合された人たちは中央に逆らうことが出来ないように収容されるか、強制的に労働を強いられるわけだ。

 

 つまりこれは、人件費をかけずにモノを生産することを可能にしていることになる。

 

 このような国との貿易を成立させている場合、まともに人件費のコストをかけてモノを生産するのは間違っているということになってしまうのだ。

 

 品質も同じならば安い方が良いに決まっている。

 

 安いのには理由があるという言葉があるが、このケースでは安いのには闇がある。そう言いかえた方が良いだろう。

 

 このように、社会システムが同じならば関税ゼロでも取引として成立するが、社会システムが違う国同士の場合はどうしてもあらゆる摩擦が起こることを知っておかなければならない。

 

トランプ大統領の関税政策

 中国に対して異常なまでの関税をかけるのはこうした理由があるからだ。

もちろん、国内の製造産業を復興させるという狙いもある。

 

 今まで簡単に安く手に入っていたモノが関税によって価格が高く跳ね上がる。

当然、よりインフレは加速するかもしれない。

 

 しかし、手に入らないとなると自分たちでそれらを作るほかなくなる。

すなわち、それが製造拠点の再建設や労働環境の再構築に繋がるわけだ。

 

 急すぎるという指摘ならともかく、これは間違っていると誰が言いきれるだろうか。

 

トランプ大統領から学ぶ国の在り方

 税金から補助金を出して、つまりカネを出して減反政策を進めてきたような日本も、トランプ大統領から大いに学ぶべき点が多々あるだろう。

 

 そして、国ごとの社会システムの違いは思ったよりも深刻な問題を生んでいる。

 

 台湾がなぜ中国へ属することを嫌うのか。

 

 おそらく戦争は遠い未来ではないと考えておいた方が身のためだろう。

 

 中国にすり寄る日本は本当に正しいのか、そろそろ考えておいた方が良い。

 

 

 

※この記事は2025年4月10日にyuzukichi.shopinfo.jpで公開したものです。

 

 

 

 

「お姉さん、お化けなの?」

 

 

 手渡した紙コップのお茶を熱そうに少しずつ、両手で口に運びながら何かを感じたのかそんなことを言う。

 

 

 一応、普通の人間のつもりなのだが。

 

 

「お化けがこんなお茶なんか持ってるわけないか。
ま、どっちでもいいんだけど。」

 

 

 何かふさぎ込んでいたようだったが、他人を目の前にして今は一旦忘れているらしい。

 

 

 寒くない?

 

 

「寒いよ。」

 

 

 空気が乾燥して冷え切っているので街灯の光の下、言葉に続く息が一層白く輝いているようにも見える。

 

 

 

 周囲を見渡すと人通りなどすっかりなく、寝静まる頃合い。

 

 

「なんでこんなところにいるのか聞かないの?」

 

 

 

 一応聞くかあ。
聞いていいの?

 

 

「男とけんかして嫌になったから、掃き溜めごっこしてる。」

 

 

 そか。

 

 

「もうちょっとなんかこう、慰めてよ。」

 

 

 

 慰めて欲しいんだ?

 

 

「いやそれはそれでなんかみじめだわ。」

 

 

 

 もう慣れてるんじゃないの?

 

 

「そうだけどやめてよ。」

 

 

 

 帰らないの?

 

 

「・・・。」

 

 

 

 さて、こんなところで立ち話を続けていると、近所の迷惑になりそうだ。

 

 

 話をするなら場所を変えたいが、こんな住宅街にふらっと入れそうなお店なんか見当たらないだろう。

 

 

 第一、肝心の現金を持ち合わせていない。

 

 

 この子もお金なんか持ってないだろうし、持っていたとしてそれをあてにするのもおかしな話である。

 

 

 時と場所を考えると切り出し方としてはこうか。

 

 

 

 ファミレスかなんか入って話聞こうか?

 

 

「奢ってくれんの?見ず知らずのお姉さんが?
やった!って言いたいところだけど、この辺マジでないんだよね。」

 

 

 そうかあ。

 

 

「お茶くれたし、いいよ。
ああ、そこの公園がいいかも。」

 

 

 そう言って大きなマンション裏の公園まで一緒に歩く。

 

 

 北側に建物があるから、なるほど北風からは身を守れる。

 

 

 すべり台と鉄棒、ああ、あのブランコはどこかで。

 

 

 

 そこまでたどり着くと、ちょうど丘の上になっていて、眼下に広がる都会の街並みが夜景と化していて光をちりばめたようだ。

 

 

 たくさんの高層ビルに阻まれてはいるが、うっすらと遠くに海が広がっているのもわかる。

 

 

 うわあと思わず感嘆の声をあげると、不思議そうな顔をしている。

 

 

「お姉さん、ほんとに何なの?
この辺に住んでるならこんなのいつもの景色だよ。」

 

 

 

 知ってる。知ってるよ。
でもね、あの街が活きている景色をここから観るのは初めて。

 

 

「変なの。」

 

 

 変なのよ。

 

 

「なにそれ。ふふふ」

 

 

 生きてたら色々あるのよね。
美味しいもの食べたとかなら共感してもらいやすいけどさ。

 

 

 苦しさとかわけわかんないこととか、"生き詰まる"と抱えちゃうんだよ。

 

 

「それ、今の私なんだけど。」

 

 

 そうなの?

 

 

「そう。」

 

 

 ひょっとして、このままいなくなっちゃおうとしてた?

 

 

 

 彼女は少し目を伏せて気まずそうにしているから、しばらく周囲の風の音とか、街から聞こえてくる車の音とか、そんなのに耳を傾ける。

 

 

「こどもが」

 

 

 うん?

 

 

「子供がいるんだ。」

 

 

 そうなんだ、いくつ?

 

 

「え、いくつだろう。
9歳かな。」

 

 

 ああ、じゃ旦那さんとけんかしてこうなったんだ?

 

 

「・・・父親じゃないよ。」

 

 

 

 この一言をきっかけに言葉を詰まらせながら、これまで誰にも話せなかったことを話せる相手をようやく見つけたかのように、ここまでの経緯をたどたどしくも話してくれた。

 

 

 おそらくは、やっとの思いで。

 

 

 でもいつか誰かにぜんぶ吐き出したかった。

 

 

 吐き出してやりたかった。

 

 

 そう思えてならなかった。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2025年2月23日にnote.comに掲載したものです。

 

 

 

 

 閑静な住宅街、それも夜で夕飯時もすっかり過ぎたようだ。

 

 

 かつての関東の冬はじわじわ刺さるような乾いた寒さが特徴で、これがアスファルトとコンクリートで敷き詰められた結果なのかは定かではない。

 

 

 たしか、親切な誰かに連れられて病院で診察を受けているはずだが、それはどうなったのだろう、最近記憶がどうも混濁するようで確定できないから困っている。

 

 

 そもそも、それをお医者さまに診てもらっているはずだが、まあこうしてこうなっているということは、解決には至っていないということだろう。

 

 

 やれやれ、世界がおかしくないのだとすれば、原因はわたし本体の問題であって、どうやらその問題と終ぞ共にしなければならないらしい。

 

 

 とはいえ、人間の身体のメカニズムなんて現代医学でもほとんどが解っていないのだから仕方がない。

 

 

 人間どころか、植物の光合成のメカニズムや構造すら完全に解明することは難しいとされている。

 

 

 でなければ、とっくにそれを活用して世界中のエネルギーや食糧問題など解決の道筋はいくらでも出来ているはずだから。

 

 

 

 さてそんな誰か権威のある科学者や研究者に任せておいていい壮大な問題より、わたしは目の前の問題をどうにかしなければならないらしい。

 

 

 こんな寒空の中、一本の電柱につく街灯がもたらす狭い光の下で、若い女の子が一人小さくうずくまっている。

 

 

 わたしも、見知らぬ人に気軽に自分から声をかけていけるようなそんな立派な人間ではないので内心困惑しているところだ。

 

 

 すると、存在に気付いたのか彼女がふと目線を上げる。

 

 

「お姉さん何?」

 

 

 

 しばし沈黙が流れる。

 

 

 いや、何と言われましても。

 

 

 むしろ、逆にこちらが聞きたいくらい。

 

 

 

「ほっといてくれない?」

 

 

 ダメだ、これはすべての干渉を受けつけてもらえない。こんな人に必要なのは唯一、時間だけだろうが生憎わたしもどうしたらいいのかわからない。

 

 

 どうにかこの人とコミュニケーションを成功させる必要がありそうだ。

 

 

 

 そういえば紙コップに入った熱々のお茶を持っている。

 

 

 一杯だけだがまだ口をつけていないからとこの子に飲みなよと手渡す。

 

「どこからもってきたの?」

 

 

 

 まあそれはそう。

 

 

 わかんないと答えると、クスクスと彼女が笑ってくれた。

 

「ありがと。」

 

 

 

 うん、よかった。

 

 

 

※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。

 

※この作品は2025年2月16日にnote.comに掲載したものです。