――そか、大変だったね。
ぽつりとそっと、ひとこと彼女に言葉をかける。すっかり冷え切っている体に上着をそっとかけてあげるように。
目の前にはこんなにも豊かな文明が放つ光であふれているというのに。
小学生半ばの子供がいるには若すぎる年齢、それでも驚かなかったのは外見がそう見えなかったからだ。
それほどに環境はひとりの人間のすべてを変えてしまう。
大人にならないうちに子供を持った。
まだ子供だった彼女にはただただ大きな責任でしかなかったらしい。
そして彼女の家庭にとってもまた、とても受け入れられるものではなかった。
気づいたら、まるで大きな石を広さも深さもわからない池に投げ入れてしまったような惨状で、自他ともに収拾がつかなくなったという具合だ。
わたしがかけた一言がきっかけかはわからないが、静かな夜の浜辺に打ちつける穏やかな波のように彼女は泣き始めた。
悔しいのか、悲しいのか、わたしにはわからない。
それは彼女本人にしかわからないもの。
この公園にはベンチもあるのだが、彼女はブランコを選ぶ。
もしかしたらこれに乗りながら話すことで、自分の話をそんなに重く受け取るなという小さな強がりだったのかもしれない。
また、こんな誰もいない夜の公園にいたら危ないといえば危ない。
いざとなれば、その鉄の塊はとても良い武器になるだろう。
わたしは今彼女の傍にいることしか出来ない。
ただそれで、少しでも気が楽になってくれればいい。
ひとしきり泣き終えた彼女を見届ける。
この状況にはかつて覚えがある。
すっかり葉を落とした紅葉の木もある。
それとわかるのは、木を取り囲むように敷き詰める芝を隠しているから。
ここが後に、多くの被災者を弔う霊園となるのは彼女も知らないだろう。
いやどういうわけだか、この場所には何かと縁があるらしい。
そもそもなぜ、わたしはこうしているのだろうか。そこも併せて考えると、今のわたしの役目が理解できた気がする。
ねえ。
「なあに?」
涙声混じりに小さく彼女が返す。
どう言えばいいかわからないが、やるだけやってみるか。
もう少しここで待ってなよ。
「誰を?」
わたしじゃ出来ない事を出来る人が来るから。
「なあにそれ。」
きっとあなたを救ってくれる。
「なんで?」
さあ?
「わけわかんないんだけど。」
うーん、そうだよねえ。
まあ、それまでは一緒に待ってるからさ。
「どうせ行く所ないしなあ。」
この彼女の言葉には違和感を感じる。
なぜその、子供と一緒にいないのか。
彼女のその絡みに絡まった事情はのちに知ることになる。
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。
※この作品は2025年3月1日にnote.comに掲載したものをAmebaブログ用に加筆修正したものです。
