プロポリスに含まれる抗ガン物質(1) | 松野哲也の「がんは誰が治すのか」

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プロポリスに含まれる抗ガン物質(1)



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肝臓がん細胞(正常)

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肝臓がん細胞(死滅)


 1990年5月の連休のことです。私は人けのないひっそりとした研究室で顕微鏡に向かい、プラスティック・シャーレの中で培養したガン細胞をじっと観察していました。前日プロポリス抽出液を加えて培養したヒト肝臓ガン細胞は増殖が抑えられ、すでに丸くなって死滅していました。
 ヒトの子宮頸ガン、肺ガン、腎臓ガン細胞も同じように死滅したのです。

 プロポリスにはガン細胞を死滅させる物質が含まれているに違いない!
私は「肝臓ガンの研究」のところで述べましたが、抗ガン物質を求めて、色々な天然物質の薬理作用を調べていたのです。
 当時、プロポリスはブラジルから輸入されたばかりの得体のしれない健康食品でした。私はそれに多彩な植物成分が含まれていると思ったので、実験に使ったにすぎません。
 ともかく、ガン細胞を死滅させる成分を単離する仕事を始めることにしました。


 私は保健行政に関連する研究所の研究室を運営していました。具体的には、メーカーが製造したワクチンの国家検定を行い、認可するかどうかを決めるのです。
 たとえば風疹ワクチンが接種されるようになるには、私の認印が必要とされました。研究もウイルス疾患とそれをひきおこすウイルスを対象に行うようさだめられていました。このようなことは責任をもってきちっと行いましたが、本当の私の関心はがんを治すような研究に向けられていたのです。それは、いってみれば完全な個人プレーです。
 そのような研究を研究所内で公然と行うことは禁じられていました。

 そこで、肝臓ガンの場合もそうでしたが、プロポリスから殺ガン細胞物質を単離する仕事は、前に述べました財団法人の研究所でおこなうことにしたのです。勤務時間外か日曜日にです。


 実験を始めてわかったのは、プロポリスには実に多種多様な化合物が含まれることでした。300種類以上はあるでしょうか。

 殺ガン細胞物質を取り出す作業は以下の手順で行います。

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 写真にあるようなステンレス管に色々な種類の樹脂が入ったカラムに、プロポリス抽出液を注入し、各種有機溶媒を流して成分を溶出するのです。成分の性状によってカラムから流出される順がことなります。溶出液はフラクション・コレクターという機器に設置した試験管に自動的にあつめられます。その分画をプールしてロータリー・エバポレータという機械で乾燥させます。それをDMSOという薬品で溶かし、細胞培養液で希釈し、腫瘍細胞に損傷を与えるかどうかをテストするのです。活性のある分画に含まれる成分は、再度、別の樹脂、溶媒をつかって分離されます。
 気の遠くなるような単純で手間のかかる作業です。しかし、どのような樹脂や溶出溶媒を使うかは勘で決めなければなりません。このようにしてとりあえずは活性のある3種類の成分を単離・精製することができました。
 これを質量分析器で分子の大きさ(分子量)を、核磁気共鳴装置で原子配列に特有なシグナルを特定します。両者をもとに化学構造を決定するのです。

 このような作業は比較的早く進み、3種類の化合物の構造が明らかとなりました。
このなかの1つの物質の正体(他は、カフェイン酸フェネチル・エステルとケルセチン)は、少し難しい言葉ですが、「クレロダン系ジテルペン」という化合物の一員で、これまでに知られていない新規物質でした。
 PM-1と名付けられました(Pはプロポリス、Mは松野の頭文字です)。翌年1991年の日本癌学会で発表し注目されました。

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PM-1

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PM-1は、DMBAという強力な発癌剤をマウスの皮膚に塗布すると皮膚ガンができますが、それを抑制しました。
一般の抗ガン剤だと皮膚に障害がでます。毛もぬけたりします。しかし、PM-1を塗布したマウスの皮膚は障害を受けるどころか、むしろ艶があり、動物も元気でした。

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 ガンに効く成分が含まれるからプロポリスはガンに効く、と私たちは短絡的に思いがちです。ともかくこの発表が引き金となって、プロポリス・ブームがおこりました。プロポリスが一人歩きしてしまったのです。もっともこれらの成分は、直接塗布した場合、皮膚がんや子宮頸がん等を治癒します。しかし、飲用した場合は希釈されるためその作用は示されません。プロポリスを飲んでがんが消えるのは細胞性免疫が上がった場合だけです。
 日本だけの現象でした。プロポリスがガンに効くということなど、2000年以上の歴史上で今まで全く知られていなかったのですから。

 先に述べたカフェイン酸フェネチル・エステルという化合物をプロポリスから単離してその働きを調べ、抗ガン剤として開発できないかと研究していたのが、私をコロンビア大学につなげてくれたグルンバーガー名誉教授です。
 彼は焦げた食品に発ガン作用のある物質が含まれることを発表したことで知られる国立がんセンターの総長だった生化学者の杉村隆氏の知己で、彼の研究室を何度か訪れたこともあります。発ガンのメカニズムを研究していたからです。国立がんセンターからは、彼の研究室に研究員が何人も留学していました。

 グルンバーガー博士(名前がデザイダーなのでディジョンと呼んでいましたが)は、あるとき末期の肝臓ガンの患者がプロポリスを飲んでよくなったのを目の当たりにしたそうです。死亡したのは別の病因によるものでした。
 ユダヤ系チェコ人特有の勘で、彼はプロポリスに何かあると直感したのです。

 話は変わりますが、彼の妻・マルタは家内のことをユダヤ系イタリア人のようだとよく言っていました。子供を可愛がってよく面倒をみて、つないだ手を離さないからだそうです。

 グルンバーガーは65歳になっても大学を辞めず、名誉教授となりプロポリスの研究を始めました。
 (アメリカでは日本と違い、名誉教授は大学で研究を続けます。日本では、東大名誉教授というと偉そうにきこえますが、実質は大学に来ることを往々にして嫌がられる名ばかりの肩書をもった人にすぎません)。
そして上記物質を得たのです。私が渡米したとき、彼は73歳でした。
 彼はオフィスだけを構えて、コーネル大学のダーネンバーグ教授に実験を任せていました。私が彼の研究室を引き継いだからです。

 グルンバーガーにはS字結腸ガンの再発・転移がみとめられました。私が調製したプロポリスを渡しましたが、転移巣が縮小しないといって2週間で飲用をやめてしまいました。私はプロポリスの働きは間接的なものなので、無意識の方向づけが大事だと言ったのですが。
 1998年の夏に彼は亡くなりました。消化器系ガンによく使われる抗ガン剤である5-FUも無効だったのです。


 プロポリスが本当にガンに有効なのかどうかについてはのちほど触れましょう。