幻覚や妄想の神経外科的な治療は 倫理的な理由で放棄されたわけではありません。
1950年代に広く利用されるようになった薬、すなわち 「メイジャートランキライザー」を使えば、より低い合併症発生率と死亡率で 同等の治療効果が得られることがわかったので 廃れていったのです。
これらの薬は、現在の「抗精神病薬」もそうですが 中脳皮質ー中脳辺縁系ドーパミンシステム と呼ばれる脳回路の末端で(側坐核のドーパミンD2受容体に結合することにより)神経化学物質であるドーパミンを遮断します。この回路は マーク・ソームズの患者さんと同様に、ロボトミーで切断される部位でもあるため、彼は これが 夢を生み出すシステムではないか という仮説を立てたのでした。
更なる調査実験で 彼の仮説は 確証されました。

しかし、この回路を薬理的に刺激すると、夢の頻度、長さ、強さ が 増加し、レム睡眠には 相応の影響がないことは 既に立証されていました。
この薬は レポドパ (L--ドーパ) で、オリバー・サックス(2007-2012まで コロンビア大学メディカルセンター教授 (精神神経学)。映画化された『レナードの朝』など多くの著書がある)が 脳炎後の患者さんを「目覚め」させるために使用したのと全く同じものでした。
パーキンソン病の治療に ドーパミン刺激薬(正確には ドーパミン生合成前駆体。(ドーパミン類似体は チロシン→L-ドーパ→ドーパミン→ノルアドレナリン→アドレナリンの流れで合成される))を使用する神経科医は、サックスのように 患者を精神病(統合失調症←精神分裂病)にしなければならないことは 以前から知っていましたが、異常に鮮明な夢を見るようになるのは この薬の最初の副作用であることが多いのです。
その後の決定的な発見(知見)は、この回路を構成するニューロン(その細胞体(質)は A10神経といって 中脳の腹側被蓋野にあります) が、夢を見ている睡眠中に 最大の割合で発火している、そして、同時に 標的の側坐核に 最大量のドーパミンを送り込む ということでした。
従って、夢を見ることは レム睡眠とは無関係に起こりうること、そして 中脳皮質-中脳辺縁系ドーパミン回路が 実際に 夢を見る主要な駆動因である ことは 明らかにされたものと考えられます。