レム睡眠を制御しているのは、単純な オンとオフのスイッチ のようなものでした。
レム睡眠のスイッチをオンにするニューロンは 中脳橋被蓋部にあります。
これらのニューロンは アセチルコリンと呼ばれる神経化学物質を前脳全体に放出します。
アセチルコリンは 覚醒 (arousal) を惹き起こし、意識のレベルを昂めます (例えば、ニコチンは アセチルコリン受容体を刺激することで 集中力を高めます)。
レム睡眠のスイッチをオフにする脳幹ニューロンは 橋の奥深く 背側縫線核と青斑核複合体にあります。
これらのニューロンは セロトニンとノルアドレナリンを それぞれ 放出します。
アセチルコリンと同じように これらの神経化学物質は 意識レベルの様々な側面を調節します。

これらの発見と レム睡眠が 時計仕掛けのように ほぼ90分ごとに自動的に切り替わるという事実を組み合わせて、ホブソンは まもなく次のような結論を 必然的に導き出しました。
「夢見の主な原動力は 心理的なものではなく、生理的なものである。なぜなら、夢を見ているとされる睡眠の発生時間と持続時間は 極めて一致しており、それは あらかじめプログラムされた神経的に決定された発生を示唆するからである」。
アセチルコリンは 交感神経の節前神経の神経伝達物質(交感神経である汗腺神経では 節前、節後 両神経のそれ)、副交感神経では 節前、節後 両神経の神経伝達物質です。
アセチルコリンは 神経が筋肉に「収縮せよ」という指令を伝える神経伝達物質でもあります。同物質が 筋細胞膜上のアセチルコリン受容体に結合すると 筋細胞に ナトリウムイオンが流入し、細胞外にカルシウムイオンが放出されます。すると アクチンとミオシンという筋肉の繊維タンパク質が相互にスライドする(滑り込む)ことで 筋肉の収縮がおこります。
副交感神経から放出されたアセチルコリンは 目の水晶体の周りを囲んでいる筋肉である網様体に作用して、目の調節機能に関与します(ですから、検眼のまえに アトロピンという抗コリン薬を 眼筋が動かないようにと 点眼されるのです)。コリンエステラーゼの働きを阻害する猛毒のサリンは 放出された猛毒のアセチルコリンを分解させないため、人を呼吸不全死に至らしめます。
レム睡眠中の眼球運動の理由については まだ本当のことが分かっていません。
最近のBrain誌によると、眠って夢を見ている間も体の自由が利き、身体を動かして 夢を"実演"する「 レム睡眠行動障害」の患者さんにおいては 急速眼球運動は 夢の中の行動と一致する傾向を示した そうです。このことから、もっとも妥当な説明は 「見ている夢の像を追うために 眼球がそちらに視線を向けている」とされました。でも おかしいような気がします。これでは、こと 夢の神経科学に関しては、自分の目を信じるのが最適なように思われるからです。レム睡眠と夢を同一視するのが間違いであるという マーク・ソームズ(”The Hidden Spring" の著者)の説の方が 私には納得がいくように思われます。次の 夢 B-2のあと そちらに移行したいと思います。