プロポリスに含まれる抗ガン物質(2) | 松野哲也の「がんは誰が治すのか」

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$松野哲也の「がんは誰が治すのか」-プロポリス成分


 私たちが明らかにしたプロポリスに含まれる培養・ガン細胞を死滅させる化合物を図に示しました。

 PM-2a、PM-2bは、前回述べましたPM-1を分離する際にみつかりました。PM-3はE化学という製薬会社の協力によってみつかったものです。
 PM-3は新規物質であり、これらはPMシリーズの一環としてドイツのマックス・プランク研究所が刊行している雑誌(Zeitschrift fur Naturforschung)で発表しました。

 PM-3(Z-isomer)という物質はPM-3が光によって変化した新規物質です。T医科歯科大学の医学部・大学院生である40歳代後半の女性(歯科医の奥さん)がみつけました。
 彼女が大学院生となったとき、私は日本を立つ準備をしていました。そこで取り急ぎ彼女に実験の手順を伝えておいたのです。実験をサポートする同大学の女性スタッフも紹介しておいたのですが、二人は仲互いをしてしまったようです。彼女がそのことについてアメリカの私の実験室まで電話してきました。
 しかし、同大学研究所の別の部門のスタッフ達による協力もあり、彼女は同物質を特定するに至ったのです。論文も出し、学位をとった彼女は、現在ある大学の薬学部で教えています。

 アルテピリンCに関してはその作用機構について論文で発表しましたが、同化合物については林原生物化学研究所でもその抗ガン作用の研究が行われていました。

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 カフェイン酸・フェネチルエステル(CAPE)に関してはすでに触れました。
 グルンバーガ―博士はそれを日焼けによる皮膚ガン誘発防止のための薬剤として開発したかったようです。その物質を化学合成していたのが、以前述べた化学科の特任教授でした。 写真にあるものは私の研究室で化学合成したものです。

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 PRF-1は前回も述べましたが、未だにその正体がわからないままです。

 最初に見だされた新規物質であるPM-1の化学合成には日本円にして数億円以上かかると試算され、合成手順も途中までは推測できたのですが、ついに化学合成にこぎつけるには至りませんでした。


 そこで実験は、化学合成できた(アルテピリンCを化学合成し、それを脱水縮合させることによって得られます)PM-3を中心に行われました。

 この物質について見つかった多彩な生理活性については、今回省略しましょう。
要は、通常のアドリアマイシンのような従来の抗ガン剤に比べると切れ味がにぶいのです(5-FUの十分の一程度の活性はありましたが)。
 薬理毒性試験でもとくに毒性は示しませんでした。しかし人体に投与するには、多量となるため、様々な副作用がでることが想定されました。
 注射すると直接ガン細胞に働きかける抗ガン剤として開発することは断念せざるをえなかったのです。

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 医学部長に相談にいきました。彼はなんとアルテピリンCを臨床試験に使ってみたいと言い出すではないですか。私はわが耳を疑い、呆れました。
 彼はスローン・ケタリングがん記念センターにあるナチュラルキラー細胞・幹細胞の入手に関しては手配してくれましたが(これを使った実験に興味はなかったのですが、のちにプロポリスと抗腫瘍免疫との関係を考える上で、ひとつの契機となったとはいえましょう)。

 この絶望がS字結腸ガンをひきおこす最後のとどめとなったようです。
私もガンは直接叩くものだと思っていたのです。周囲の研究者十人が十人ともそうであったように。