新入社員が半年続いた事がないBARに配属されたが、気がつくともう8月に入っていた。
7月から順番に夏休みをとり、先輩達は有給が溜まっているので、10日前後とる人も少なくない。
Hホテルは当時、世界中に103ヶ所あり日本では東京のみだが、夏休みや正月休みに予約して世界各国のHホテルを利用する社員は多い。
それはHホテル社員の特典として、世界中どこのHホテルでも宿泊は無料、飲食は半額になるからだ。
あの武田さんは新婚旅行でパリのHホテルを利用したそうだが、新婚旅行という事で宿泊だけでなく飲食も全て無料にしてくれたという。
とはいえ俺は海外に全く興味がなく、当時はもっぱら車を運転する事だけが楽しみだった。
バーテンダー志望の同期で俺と同じ専門学校から来た岸田も車好きな為、休みに限らず仕事終わりに渋谷まで2台連んで夜中に食事してから帰ったりもしていたので、毎夜仕事後に各自の車でドライブがてらいろいろな店に寄ってから帰るのが楽しかった。
休みの日も当然ドライブに出かけていて、夏は仕事終わりの明け方に学生時代のバイト仲間だった同じ年の秋元というフリーターと早朝から湘南に車を走らせ、7時頃から砂浜で日光浴して夕方の渋滞を避けて昼には帰宅するというのがパターンで、岸田と休みが合えば下北沢の彼の家に行って一服し、それから夜な夜な2台で渋谷まで行って朝まで遊んでいたりと、今思えばまだ20代前半の俺達はパワーが有り余っていたのだろう。
だが、仕事に入ると毎日が憂鬱で今すぐにでも辞めたいと毎日思っていたが、職場のガンだった稲垣さんがいなくなり、武田さんもすっかり丸くなったので、それまで暗くピリピリした空気が無くなりいつの間にか俺の居心地の良い空間になりつつあった。
そんな時、BARでは大事件が勃発する。
それは俺を含めた4人が始末書を書かされるという前代未聞の事件だった。
〜つづく〜
📕元ホテルマンが書いた小説📕