ホテルマンは3年で辞めました【22.前代未聞の検便】 | SHOW-ROOM(やなだ しょういちの部屋)

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 「これってそんな頻繁にあるんですか?」


出勤してすぐにマネージャーから、ある容器を渡された。


「3ヶ月に1回、我々飲食業のスタッフには義務付けられてるんだよ。」


面倒だ。


だからFB(フード&ビバレッジ)部門は嫌いだよ!


そう思いながら裏に引っ込むと、内田さんが何やらコソコソとやっていた。


「おはようございます!何してるんですか?」


「ええ?検便だよ、検便(笑)」


「はっ?どういう事ですか?」


「こんなの毎回やってらんねえだろ!こんなの菌があるか無いかだけ調べるんだからよ、これ入れとけば菌は検出されないからいいんだよ。」


我々ホテルのレストランバースタッフに義務付けられている検便。


それをこの道12年の内田さんが大胆な事を行っていた。


「それってマジで大丈夫なんですか?」


「だ〜いじょうぶだって!俺なんかもうずっとコレだぞ(笑)」


確かに、あれなら楽だ。


長年やっている内田さんが言うんだから・・・。


「ヤナダさん、12番テーブルのお客さんにタバコ頼まれたんですけど聞き取れなくて、マーボーとか何とか言ってるんですよ。シガレットマーボーとかって麻婆豆腐じゃないですよね?」


外国人客にタバコを頼まれた野口が慌てていた。


「ああ、それな、訛ってる英語の外国人で、俺も未だに聞き取れない時あるよ。マーボーは多分マルボロだろ。」


俺がそのテーブルに行き太っちょの白人男性に確認してみると、やはりマルボロを頼まれた。


フロントから戻って来た野口が白人男性にタバコを届けるのを見て、俺は手招きをして裏に呼んだ。


「明日は早番だろ?」


「そうなんですよ〜。仮眠室に行くんですけど、どうやって毛布借りるんですか?」


「あ、俺泊まったことないから、大野さんに聞いてみな。」


「分かりました。」


「あ、それから明日早番の時にやっといて欲しい事あるんだけど。」


「何ですか?」


「検便!」


「はい?」


「検便やっといてくれよ(笑)」


「えっ?」


そこに武田さんが通りかかると、俺達の会話が耳に入ったようで「おっ、野口がやるのか!」と。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!いったい何なんですか!?」


「お前さ、これから定期的に毎回検便やるの面倒じゃないか?」


「ええ、そりゃあめんどくさいですよ!」


「だから、これに粒マスタードをちょっと入れて出せばいいから、明日俺のもやっといてくれよ。」


すると武田さんも「野口は早番か!俺のも頼むな!」と、言って10cm程の白い筒状の容器を野口に渡して行ってしまった。


「えっ?マジですか?」


「ああ、内田さんが長年そうやってるって言ってるから大丈夫らしいぞ(笑)」


俺は内田さんから聞いたことをそのまま野口に伝えた。


翌日、早番のランチ営業が終わって後片付けをする時間、野口は俺と武田さんの検便容器に粒マスタードを入れるのだ。


勿論、野口本人のもである。


そして翌日のランチ営業が終わった時、野口は実行していた。


と、数分後、「野口、お前なにやってんだ!?」


鈍臭く、ちんたらやっていた野口がマネージャーに見られてしまった。


翌日の朝、内田、武田、ヤナダ、野口の4名は人事課に呼ばれ始末書を書くこととなった。 

 

ベテランから入社してまだ間もない者まで、前代未聞の不祥事をやらかしたのだが、俺は入社1年目でまだあと2回も始末書を書くことになるとは、この時点でまだ知る由もなかった。


〜つづく〜