総理大臣・坪倉義郎【19.穏やかに暮らせる国に】 | SHOW-ROOM(やなだ しょういちの部屋)

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 「熊田議員が叩かれてますね。」


秘書官の木村が週刊誌を総理のデスクに置いて見せた。


「運送会社も経営してるんですか。」


総理がぼそっと言った。


「地元でそんな態度したらダメでしょう。」


木村が呆れたように言う。


電報を届けた業者に対して乱暴な言葉遣いだったと記事に書いてあった。


「自宅の隣に事務所があるんですが、そこに誰もいなかったので自宅に行ったら熊田議員本人が出て来て、そこに事務所があるだろ!そっちに持ってけよ!って言ったらしいですよ。」


「熊田議員っていくつですか?」


「68歳のようです。」


それを聞いた総理も呆れたように言う。


「そういう人っていつからそんな態度をとるようになってしまうんでしょうね。」


「子供の時からでしょ!おそらく家業が運送屋で地主でもあるようですし、親からしてそんな態度の人間なんでしょう。」


「なるほど・・・。倉庫にも挨拶しない、出来ない派遣が多いって言ってましたね。」


「倉庫?ですか?」


「あ、いやあ、ちょっと友人の話でね・・・何でもないです。」


焦る総理。


深夜のバイトの件はこの木村秘書官にも言ってないのだから。


冷静を装って話を続ける総理。


「しかし今の若い人達も挨拶をしない人が多いそうですね。大企業の社員でも。」


「考えられないですね。それでよく仕事が出来ますね。」


「今は同じ部屋にいる社員同士なのに、会話はメールでするとか。」


「私が隣の部屋にいても、総理にメールで事を済ませるようなもんじゃないですか。考えられませんね。」


朝起きたら、親におはようと言うだろう。


人から何かをしてもらったらありがとうと言う。


昼間に人と会えばこんにちは、夜に会ったらこんばんは。


そんな最低限の子供でも出来る挨拶を、いい社会人が出来ていない現実がある。


親の躾が悪いのか。


そんな躾をする余裕も無い程に、今の世の中はセカセカしてるのか。


共働き世帯であれば、朝は早くから出勤途中に幼い子供を保育園に連れて行き、夫婦どちらか早く仕事が終わった方が保育園に迎えに行く。


それから帰宅して夕食の支度というのが日常とすれば、子供の躾にまで気が回らないという親も多いのかも知れない。


せっかく可愛い赤ちゃんを産んだなら、一日中そばにいて世話をしたくても出来ないのが今の日本。


育休もあるが、それは子供の成長過程のほんの一時に過ぎない。


経済的に余裕があっても仕事がしたいという奥様方はいるだろうが、余裕が無くて仕方なく共働きにならざるを得ない家庭は多いだろう。


幼な子とずっと一緒にいて、あ、今日はこんな事が出来た!そろそろオムツを取っても良さそう!今日は2歩だけ歩けた!今日ママって言ったよ!

などなど、毎日の成長を見逃さずに暮らしたいという母親は少ない時代なのだろうか。


そんな事を考えていた総理。


「木村さん、専業主婦になりたいとう女性がどれくらいいるのか、ちょっと調べてもらえますか?」


するとすぐに木村がデーターを持って来た。


「総理、意外ですよ。」


「ほお、意外ですね。」


木村が持って来たそれによれば20代で専業主婦になりたいのが43.2%、30代が33.3%、40代では30.3%代、50代28.7%に60代では24.1%というものだった。


「年齢が上がるほど働きたいという女性が増えているんですね。」


「はい。子育てが終わったら働きたいという女性が多いという事でしょうか。」


「いや、しかし20代でも30代でも専業主婦になりたいっていう女性が3割以上いるのだから、そういう人達の希望を叶えられるような国にしなければならないと思いますよ。」


「保育園の需要も減るようにしなければなりませんね。」


「凶悪犯罪が年々低年齢化してるようですし、やはり親が余裕を持って子育てや躾を出来るようにしなければなりません。」


「子供の小さな変化、異変にも気づける環境にということですかね。」


「そうです!この殺伐とした時代を少しずつでも穏やかに暮らせる国にしていく事が、我々の最も重要な仕事だと思います。」


総理はそう言いながら、自分が子供の頃の穏やかな日々を思い浮かべていたのだった。



〜つづく〜




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