「あ、坪倉さん!先週から来てる増田君です。」
と、5時から3時間の新人アルバイトを紹介された坪倉。
「増田です!よろしくお願いします。」
「ああ、坪倉です。よろしくね。」
挨拶もそこそこに、トラックが次々に到着し倉庫内が仕分けする荷物で溢れかえる。
そんな状況でも、坪倉が来ていない間に仕事を覚えたようで、増田君はテキパキと動いていた。
終わり近くになりほぼ仕事が終わると、あとは8時になるのを待つだけとなる。
「増田君はいくつ?」
「21です。」
「学生?」
「はい。」
ここ数年は学生と話す機会が無かっただけに、坪倉は興味津々だ。
「出身はどこなの?」
「横浜です!」
「そうですか。じゃあ実家住まい?」
「いいえ、川崎で一人暮らししてます。」
「えっ?そうなの?大変でしょう?」
「まあ・・・でも一人暮らししてみたかったんで。」
「そうですか。だからバイトを?」
「はい。バイトしないと暮らせないので。」
「え?親御さんからは貰ってないの?」
「貰ってないですよ。学費しか出してくれませんから。」
「偉いですね。」
「いえ、親は反対したのに一人暮らし始めたちゃったから・・・。」
「そうですか。ぼくも学生時代は一人暮らししてましたけど、毎日バイト漬けでしたよ。」
「え?坪倉さんもこっちの出身ですか?」
「ええ、ぼくは世田谷です。」
「大学に入って思ったんですけど、地方から出て来た人の方がリッチじゃないですか?」
「え?今もそうなの?」
「やっぱり坪倉さんの時代もそうでした?」
「ええ、こっちの子は実家暮らしならいいですけど、一人暮らししちゃうとね。」
「ですよねえ。地方出身の子は綺麗なワンルームマンションに住んでたり仕送り貰ってるから、そんな毎日バイトしなくても金に困ってないし。」
「そうそう!服も地方から来た子の方がオシャレだったりするでしょう。」
「そうなんですよね。奨学生は大変そうですけど。」
奨学生という言葉に、坪倉はハッと我に帰った。
今、この不況下で奨学生の事も気になっていたからだ。
奨学金を借りて進学するのはいいが社会人としてのスタートが借金、つまりマイナスからとなる。
それが200万円だったら、完済するのが30代半ばを過ぎてしまうだろう。
とてもじゃないが結婚なんてする気にならないし出来ないとなってしまう。
少子化問題は、実はこんなところにも問題があると坪倉は思っているのだった。
学びたい人を応援する制度のはずが、今の奨学金制度では逆に苦しめている。
学費の心配をせずに学んでもらえる制度こそ、学生にとって明るい未来になるのだから。
また、大学の入り口を広げて出口を狭くする。
要は入学が難しく卒業が簡単な今の制度ではなく、その逆にする。
そうすれば本当に勉強している者だけが卒業出来て、そうでない者はいつまでも卒業出来ないという事にするのはどうだろうと、坪倉総理はいろいろ考えているのだった。
〜つづく〜
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