平和島に向かう車中。
「こんな時間に渋滞ですか?」
坪倉総理が運転している酒井官房長官に言った。
「工事してるようですね。」
片側交互通行になっている。
と、車を進めた酒井官房長官が驚いたような声を発した。
「えーっ!?なんだあれは!」
「どうしました?」
「総理!あれを!」
酒井官房長官が指差した前方に目をやると、そこで目にした光景に坪倉総理も驚いた。
「あ、あれは・・・。」
「大丈夫なんですかね。」
2人の車を誘導する警備員が赤い点灯した棒を振っていた。
が、それを持っているのはナント!腰が90度に曲がったお爺さんだったのだ。
「信じられないですね。どこの警備会社でしょう。」
車を進めながら官房長官が言う。
その場を過ぎて、坪倉総理は後ろを振り向いて警備員が見えなくなるまで心配そうに見ていた。
「80歳は超えてたでしょう。」
酒井官房長官の言葉に、総理は言葉が出ない。
今の日本の現状を突き付けられた思いだった。
「酒井さん、我が国は本当に何とかしなければなりませんね。あんなお年寄りまで働かなければならないなんて・・・。」
年金では生活出来ない。
死ぬまで働け!と。
いつから日本はこんなに貧困な国になったのか。
そんな事を考えながら、総理はジッと目を閉じるのだった。
「おはようございます。」
サヤマ運輸に着くと、原田さんが来ていたので挨拶する総理。
「あ、久しぶりですね。」
「すみません、中々先週は来れなくて。」
1週間ぶりにバイトに来た総理。
「あれっ?今日は山本さん休みですか?」
あの大柄な社員の姿が見えないので原田さんに聞く。
「ああ、先週でクビになったらしいですよ。」
「えっ?そうなんですか?」
「ええ、全然仕事してないのが本社にバレたみたいです。」
「そうですか・・・。」
「やっとですよ!普通の会社ならとっくにクビになってますよ。あんな社員を何年も放置してるから物流の社会的地位が低いんですよ。」
今までずっと我慢していたのが感じとれる原田さんの珍しく厳しい言葉。
さっき、来る途中で見かけた高齢の警備員を思い出した坪倉総理。
働き盛りの中年なのに怠け者がいる反面、本来なら働かなくてもいい、働かせてはならない高齢者が働いている現実にやるせない気持ちになる坪倉総理だった。
〜つづく〜
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