芸人が下積みしていた時期にバイトをしながら貧しい生活をしていた話は知られているが、今のこの時代は国民生活そのものが下積み生活に等しく感じる。
特に、昔から給料が安いホテル、飲食業、整備士、美容師などは表立って知られてはいないが過酷な仕事だ。
ホテルや飲食業などのサービス業は客に細心の注意を払い気を使う業種であり、整備士や美容師は高い技術を求められる。
そういう業種に携わっている者こそ、高い給料をもらうべきだと言う声は少なくない。
まして高齢化時代に突入し、介護職もそれに等しく値する。
「坪倉さん、こちら先週から来てる須貝さんです。今日一緒に芝浦お願いします。」
深夜、3日ぶりにサヤマ運輸の倉庫に坪倉総理は出勤してすぐ原田さんから新しい派遣社員を紹介された。
「須貝です。よろしくお願いします。」
坪倉に丁寧な挨拶をする中年男性。
「須貝さんはおいくつですか?」
「50歳になります。」
「そうですか、ぼくは60を超えてるんですが、宜しくお願いします。」
坪倉総理が来てなかった数日感の間に仕事を覚えたらしくテキパキ動いている須貝さんに、親しみを込めて坪倉が話しかけた。
「須貝さんは昼間も何かされてるんですか?」
「はい、本業は酒問屋で配達の仕事しています。」
「へえ、だからそんなにテキパキしてるんですね。」
「いえいえ、まだ全然ですよ。」
「その仕事は長いんですか?」
「いや、まだ2年位ですかね。それまではずっとホテルマンだったんです。」
「そうなんですか?!また全然違う仕事じゃないですか。」
「ええ、もうホテルは安くて生きて行けませんよ!」
「えっ?そうなんですか?」
「安いですよー!ぼくが新卒で入った当時なんて基本給が大卒で13万位でしたから。」
「でもそれだけ年数いれば、それなりに上がっていくんじゃないんですか?」
「最初は毎年1万ずつ昇給があったんですが、バブルが弾けたあたりから無くなりました。」
「そうですか・・・あ、ボーナスはいいでしょ?」
「それも最初は年間5.5ヶ月位は出てましたけど、やはり徐々に減ってきましたね。」
「そうですか・・・。」
「極端に言えば30年選手も新入社員も給料に大差は無いですよ。」
「はあ・・・。」
「コロナが流行りはじめてから、GOTOキャンペーンっていうのが追い討ちをかけるように身も心もボロボロにされて転職を決めました。」
うっ、坪倉総理にとっては心にずしん!と重い言葉。
しかし、これがホテルマンの現実か。
また、正社員でも、須貝さんのように転職した人も副業をしなければならない現状が、坪倉には下積み生活から抜けられない芸人のように感じたのであった。
この状況、やはり絶対おかしい。
このままでは本当に日本は貧困な国となり、幸福度がどんどん下がって行ってしまう。
日本の将来に暗雲が見え隠れしている状況に、果たして坪倉義郎はどう立ち向かって行くのだろう。
〜つづく〜
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