差押通知書と差押命令が届いた? | じじい司法書士のブログ(もんさのブログ改め)

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法律事務所の中で司法書士・行政書士を個人開業しています。50近くになって士業としての活動をはじめました。法律事務所事務員と裁判所書記官としての経験を生かして、少しずつ進歩していければと思っております。

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平成24年9月20日に「賃料債権の差押命令」が裁判所から届いた第三債務者Aさんから相談がありました。




賃借人(第三債務者)Aさんには平成24年8月6日に、B市役所から滞納処分による差押通知書が届きました(国税徴収法62条1項、地方税法373条7項など)。賃貸人C(債務者)さんが固定資産税の納付を怠っていたようです。国税をはじめ、地方税なども納付を怠れば、徴収職員(B職員)は、滞納者(Cさん)の税金についてその財産(本件でのCさんが有する賃料債権)を差し押さえなければなりません(国税徴収法47条1項など)。




租税は納税者の総財産について、別段の定めがある場合を除き、すべての公課(公的な負担金。賦課金とか罰金とか)その他の債権に優先して徴収することとされています(国税徴収法8条、地方税法14条「地方税優先の原則」)。ですから、平成24年9月20日に裁判所から債権差押命令正本が届いていたとしても、それが債務名義に基づく債権差押〔事件番号は「平成24年(ル)第○○○○号」となっている〕であれば、当然にB市役所の差押えが優先しますから、特に問題はありませんでした。




同一の債権に対して滞納処分による差押えがされている債権に対し債務名義に基づく債権差押命令が発せられたときは、債務名義に基づく差押えをした債権者Dさんは、差押えに係る債権のうち滞納処分がされている部分については、滞納処分による差押えが解除された後でなければ取立てをすることができません〔滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律(以下「滞調法」)20条の5〕。



今回差し押さえられた賃料は1か月10万円

滞納した固定資産税は延滞税を含め300万円を超えています。

そうなると、2年以上にわたって、滞納処分差押えが続きますから、Dさんは当分の間、差し押さえた賃料を取り立てることができないことになります。



ところが、今回のDさんを債権者とする債権差押命令の事件番号は「平成24年(ナ)第○○○○号」でした。これは担保権の実行による債権差押命令事件です。Dさんは本件賃貸物件に抵当権を設定している債権者で、この抵当権に基づく物上代位としての差押えを申し立てていたのでした。



「地方税優先の原則」は「別段の定め」がない限り、地方税が他の債権に優先するという原則です。実は、地方税法14条の9では「法定納期限等以前に設定された質権の優先」について定めています。Dさんが有する抵当権にも、この規定が適用されます。よって、Dさんが勝つか、B市役所が勝つかは、Dさんの「抵当権設定登記日」とB市役所の「法定納期限等」とを比べる必要があります。Dさんの「抵当権設定登記日」(不動産登記事項証明書で確認します。債権差押命令正本にも記載がありますが、念のため、登記で確認した方がよいでしょう。)がB市役所の「法定納期限等」(差押通知書に書いてあります。)以前であれば(だから、同日付でも)、抵当権者であるDさんが優先します。確認したところ、Dさんの抵当権が優先していました。



このような場合でも、滞納処分による差押えが先行する場合にあたるので、Dさんはその優先権を主張して、Aさんから取立てをすることはできません。つまり、AさんはDさんが優先していることが分かっていても、Dさんに支払ってはいけません。一方、B市役所は取立てができることになります。でも、Aさんは、そのままB市役所に支払ってしまったのでは、Dさんから文句が出るでしょう。

そこで、Aさんには、賃料債権全額を供託することが認められています(権利供託、滞調法20条の6第1項)。そして、供託書正本を添付して、「B市役所」に事情届を提出することになります(同条第2項)。



B市役所はDさんに賃料全額を配当しなければなりません。おそらく、B市役所は差押えを解除するでしょう(無駄だし、配当したくないから。)。B市役所(徴収職員等)は、差押えの解除をしたときは、その旨をDさんの差押命令を発した裁判所(執行裁判所)に通知(差押解除通知)をしなければなりません(滞調法20条の8、14条)。その際、供託書正本を添付します(滞調政令12条の7第3項)。結局、裁判所がDさんに全額配当します。

もし、B市役所が差押えを解除すれば、翌月分からは、AさんはDさんに直接支払えば済みます。



債権差押って奥が深くて、難しいと思います。