平成26年8月29日(金曜日)午後6時30分から、平成26年度第1回豊島支部セミナーに参加しました。
司法書士会の各支部や各ブロックごとに研修を企画しますが、他支部、他ブロックでも参加することができる研修が多いのです。研修担当の先生方は大変でしょうが、参加する私にとっては、大変ありがたい話です。
今回は、「元登記官が語る!『相続登記実務の現状とポイント』」と題する研修で、元東京法務局豊島出張所総務登記官の青木登先生が講師でした。
レジュメには、お話される項目が箇条書きにされていて、実務に沿った事項について、自らの体験談や私見を忌憚なく話していただきました。
体験談の中で、自筆証書遺言書の筆記用具について話されていました。
登記申請に添付された自筆証書遺言が「鉛筆」で書かれていたものがあった……というものでした。
私にも経験があります。もっとも、私は登記申請したのではなく、書記官として遺言書の検認期日に立ち会った時のことですが。
自筆に用いるべき筆記具には、何ら制限がないのです。
裁判例上問題となったケースは、鉛筆ではなく、「カーボン紙を使用して遺言書を作成することが自書にあたるか」でした。
〔最判平成5年10月19日家裁月報46巻4号27頁、判時1477号52頁、判タ832号78頁〕
「原審の適法に確定した事実によると、本件遺言書は、Aが遺言の全文、日付及び氏名をカーボン紙を用いて複写の方法で記載したものであるというのであるが、カーボン紙を用いることも自書の方法として許されないものではないから、本件遺言書は、民法968条1項の自書の要件に欠けるところはない。」
ただし、カーボン複写の方式によって書面が作成された場合、元になった書面が存在しないことから偽造のおそれが高まります。
〔東京地判平成9年6月24日判時1632号59頁、判タ954号224頁〕は、カーボン複写により作成された遺言書につき、真正な書面であるとする裁判所選任の鑑定人の筆跡鑑定結果を筆跡の模倣についての検討に注意深さを欠いているとして証拠採用せず、偽造文書であると認定した事例です。
遺言書作成援助をする場合には、当然ながら、筆記用具も適切なもの(ボールペン、万年筆、毛筆など)を薦めるべきです。
今でも、鉛筆を使用する人は多いでしょうから、鉛筆は避けてもらいます。
ボールペンであっても「消せるボールペン」は使用しないよう注意します。
遺言書検認立会いは非常に緊張する仕事でした。
当日、遺言書の開封は、裁判官(当時は「家事審判官」)が行うことがほとんどでしたが、書記官が担当することもありました。封筒は全部切り離さないように注意して、また、中に存在するであろう遺言書を傷つけないように、慎重に作業しました。毎回、冷や汗をかいていた記憶があります。
また、開封してみると、遺言書が2通入っていたり(遺言書1通につき、検認事件1件なので、急いでもう1件立件する必要がありました。)、封筒には「遺言書」と書いてあるのに、遺言書らしきものが入っていなかったり、遺言書には検認後すぐに検認証明書をつけなければならなかったり……。
また、遺言書の内容によっては、立ち会った方が驚くこともしばしばで……もう、あのような仕事をしなくてもよいことに、ほっとしています。