ソプラノ歌手の登川直穂子さんから、リサイタルの司会を依頼された。
小江戸と呼ばれる川越に生まれ育ち、被爆地広島で多感な中学高校生活を送り、音大で声楽を学び、おおらかなイタリアで10年暮らした。
そのすべてが登川直穂子を形作ったものだ。
サービス精神旺盛、お世話好き、屈託のない明るさ。この性格の彼女に絆されて、巻き込まれた人たちが、東京文化会館小ホールに500人集まった。ボクもその一人。
登川さんは、国立音楽大学・東京芸術大学・二期会オペラ研修所で学んだ後、ローマを拠点にヨーロッパ各地で演奏活動を行ってきた。
帰国後はクラシック音楽の本場ヨーロッパで学んだ伝統の発声法を生かし、オペラ「蝶々夫人」「トゥーランドット」などの舞台に出演する他、リサイタルを開催している。
去年から30年にわたって学んできた心理学の知見に基づき、悩める芸術家たちの相談に応じている。国家資格キャリアコンサルタントの資格も持っている。彼女の手にかかれば「明るい未来」しかない。
この日、ボクは一つ期していたことがある。
いわゆる型にはまったありがちなコンサート司会にはしないと。
司会役という認識をやめてみようと。
冒頭、「登川直穂子さんの専属付き人の村上信夫」と笑いをとったが、
まさに彼女の付き人として、天真爛漫な彼女の性格が、なお一層開花するよう努めた。
トークから、「登川直穂子」を形作ったものがわかるようにしようと思った。イタリア語で歌われる曲の予習を「ある程度知っている」立場で解説しようと思った。
自分でいうのもおこがましいが「極上の雑談」にしたかった。
結果、司会というのではなく、ざっくばらんな場作りには成功したように思う。観客の中に、「話の引き取り方、引き際」を褒めてくださる方がいて嬉しかった。「程の良さ」は、この仕事で忘れてはならないことだ。
筋トレ10年。マッチョなピアニストの胸板に触る。
ピアニストの佐野隆哉(たかや)さん交えて