銀河鉄道の父 | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

日本人の誰もが知る国民的作家が実はかなりの問題児で、家族の支えがなければ後世に名を残すことはなかったかもしれない…。

映画『銀河鉄道の父』は、父親の視点から、賢治に無償の愛を注いだ物語をユーモアも交えて描く。

門井慶喜さんの小説『銀河鉄道の父』は、第158回直木賞受賞作。

原作も一気読みしたが、映画も面白かった。

 

病のため37歳の若さで亡くなり、生前はほぼ無名だった宮沢賢治。

映画は、明治29年(1896年)、質屋を営む裕福な宮沢政次郎(役所広司)とその妻・イチ(坂井真紀)の長男として、賢治(菅田将暉))が誕生したところから始まる。

政次郎は賢治を跡取りとして大事に育てるが、家業を「弱い者いじめ」と拒んだ賢治は、農業や人造宝石に夢中になり、さらには宗教にハマって東京へ家出。

政次郎は賢治に振り回されっ放しながら、むしろそれを喜んでいる節がある。

賢治最愛の妹のトシが病に倒れ、賢治はトシを励ますため一心不乱に物語を書き続け、読んで聞かせるが、トシは旅立ってしまう。

賢治は「トシがいなければ何も書けない」と泣き叫ぶが、政次郎は「私が宮沢賢治の一番の読者になる!」と励ます。

生前、賢治が自費出版した詩集「春と修羅」と、童話集「注文の多い料理店」は全く売れなかった。しかし、その才能を信じ続けた家族が賢治の作品を世に送り続けたことで、次第に評価を得るようになる。

 

とにかく役者の演技が素晴らしい。

中でも菅田将暉さんは、賢治そのもの。

「家族を巻き込むエネルギーに溢れた息子」を演じ切った。

ご本人曰く、「ことばに出来ない納得感のある芝居が出来た」。

父・政次郎の役所広司さんも、「厳格だが妙に隙だらけ」の父親がにじみ出ていた。ラストシーンで今わの際の賢治に向って「アメニモマケズ」を朗誦するシーンがある。読み終えて「これであってか」と賢治に尋ねる。涙と笑いが交錯するシーンだった。