WBCサムライ語録~彼らは未来を見据えている | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

野球の神様は絶対にいる。

これ以上ない筋書きを用意してくれる。

WBC準決勝。5ー4でメキシコにリードされて迎えた9回裏。

侍ジャパンの期待の星、3番大谷翔平がツーベース。

続く4番の吉田正尚がフォアボールを選ぶ。ノーアウト1塁2塁。

ここでWBCが始まってから打撃不振。この日も3三振の村上宗隆。

村上選手は、「バントのサインも頭をよぎった」という。

しかし、その村上選手に勇気を与えたのが、ホームランが出なくても起用し続けた栗山監督の言葉だった。

「もうムネに任せた。思い切って行ってこい」。この言葉で、村上選手は「腹をくくった」。 そして、3球目の速球を無心で振り抜いた。。打球はセンターオーバーのフェンス直撃のサヨナラ安打。歓喜の輪の中心にいた。

22日の決勝戦では、2回に村上選手待望の同点ホームランが飛び出した。これがなかったら優勝できなかったわけだから、まさに栗山監督の言葉、「最後おまえで勝つんだ」が実現した。

そして、奇しくも天の配剤というべき巡り合わせが…。

1点差で迎えた9回。ツーアウト、抑えでマウンドに立っていた大谷が迎えたのはエンゼルスの同僚、トラウト。「現役最強打者」と評される米国の主将と向き合った。

161キロの速球で押し込み、最後は外角に大きく逃げていくスライダーでバットに空を切らせて三振。グラブとキャップを思いきり放り投げ、大きくほえた。内外野、ベンチから次々と集まる仲間たち。あっという間に広がった歓喜の輪の中心では、日本が世界に誇るヒーローが跳びはねていた。

 

侍ジャパンの選手たちは、試合前の円陣が心を1つにした。

輪の中心で毎日1人ずつ、声出し役を担当。試合前のナインを鼓舞して一体感を生んだ。WBC本大会7試合の円陣の「言葉」。

●9日中国戦の村上宗隆。

「いよいよ今日から始まります。長くて7試合。1つ1つ勝ちを積み重ねて絶対世界一になりましょう。ケガで出られなかった鈴木誠也さんのユニホームもベンチに飾ってるのでチームジャパンで世界一絶対とりましょう。良いですか? さあいこう!」

●10日韓国戦は、ラーズ・ヌートバー。

「兄弟として、家族として残り6試合。昨夜の試合で緊張が解けたので今日は自由に動きましょう。ガンバリマス! さーー行こう!」 

●11日チェコ戦は甲斐拓也。

「東日本大震災から12年が経った今日。たくさんの人が僕たちの野球を見てくれています。嶋基宏さんがこのような言葉を言っていました。『誰かのために頑張る人間は強い』と。今日は全力でプレーする中で、失敗も起こるかもしれませんが、全員でカバーし合って助け合って戦い抜きましょう。今日も勝ちましょう。さあいこう!」 

●12日オーストラリア戦は牧秀悟。

「お疲れさまです!昨日はナイスゲームでした。しかし今日勝たな意味ないです。良い感じで今日勝って、次につなげていきましょう。そのために今日のスタートの人たち、存分に暴れてきてください。こんな最高のメンバーでやるのあと4試合しかないです。行きましょう。今日、絶対に勝ちますよ。いいですか?行きましょう。さーーー、行こーーー!」。 ●準々決勝の16日イタリア戦は、再びラーズ・ヌートバー。

「行きましょう! 家族として、あと3試合残ってます。今日の試合が僕たちをマイアミに連れていきます。かっこよく自分のプレーをして、勝って、飛行機でパーティーしましょう。頑張りましょう! さあーーー行こう!」。 

●21日メキシコとの準決勝は、ダルビッシュ有。

「お疲れさまです!宮崎から始まって約1カ月、ファンの方々、監督、コーチ、スタッフ、この選手たちで作り上げてきた侍ジャパン、控えめに言ってチームワークも実力も今大会ナンバーワンだと思います。このチームで出来るのはあと少しで今日が最後になるのはもったいないのでみんなで全力プレーをしてメキシコ代表を倒して明日につなげましょう。さあいこう」 

●22日アメリカとの決勝戦は、大谷翔平。

「憧れるのをやめましょう。ファーストにゴールドシュミットがいたりとか、センター見たらマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたりとか。まあ野球やっていれば誰しもが聞いたことがあるような選手たちがやっぱりいると思うんですけど。今日1日だけは、やっぱ憧れてしまったら超えられないんでね。僕らは今日超えるために、やっぱトップになるために来たので。今日1日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えて行きましょう。さあ行こう!」

 

栗山英樹監督は優勝直後の記者会見で世界一を奪還した意義を語った。「若い投手がこれだけすごいメンバーに臆することなく一生懸命投げた。日本の野球界にとって素晴らしい財産。それを見て『かっこいいな』『野球をやろう』と思ってくれた子どもがいてくれれば、僕はすごくうれしい」。

きょうの帰国記者会見でも栗山監督は重ねて言った。「野球の面白さ、すごさを選手たちが見せてくれた。子どもたちはかっこいいなと思ってくれたと思う。『こうなりたい』と思った時に人は頑張れる」と、未来の野球界につながることを期待した。

大会中、栗山監督は、大谷翔平をこう評した。

「ずっと彼を見てきて、翔平らしさが出るのはああいう時。投げるとか打つとかは別として、この試合は絶対に勝つんだという野球小僧になりきったときに彼の素晴らしさが出る」と。

 

前例や慣習にとらわれるのではなく、信じた道を前に進む大谷の野球と向き合う姿勢は、世界中を熱くさせる。

そして頂点に立ってもなお、「世界一の野球選手になる」という挑戦は終わらない。「今日勝ったからといって目標が達成されたわけではない。通過点」。そう語る28歳の「野球小僧」は、3年後の次回大会にも意欲を見せた。

 「出たいです。僕自身が一定のレベルに居続けることが条件なので、毎年最善の努力をしたい」

彼は、現状に満足していない。常に未来を見据えている。

自分の未来だけでなく、全国の野球小僧たちに、自分たちの白熱プレーを見せることで、後に続いてほしいと願っている。