日本テレビ系の夕方のニュース番組『news every.』のメインキャスター、藤井貴彦アナウンサー。
自らの思いを込めた真摯なメッセージは多くの人の胸に響き、インターネット上では"藤井コロナ語録"という呼び名もあるほどだ。
彼がことば選びについて、自らの想いを綴った本を読んだ。
伝えるために、彼がどれほどの準備をしていることか…。その周到な準備が「伝わる」アナウンスになる。
本の書き出しに「人生は誤解との戦い」とある。
伝える仕事をしてきた人の実感がこめられている。
特に、コロナ禍に見舞われた今、SNSなどで言葉による「世界で最も残念な悪循環」が繰り返されている。
ささくれだった言葉で人を傷つける前に、「伝わり方を想像する」。
これが「伝える準備」。そうすれば悪循環を好循環に変えられる。
藤井さんは、新人の頃、何人もの先輩から「美しいものを見て、美味しいものを食べなさい」と言われたという。ボクも同じようなことを言われた。そうして五感を養い、ことばの引き出しを増やしていく。経験を重ねていくほどに、「人間性」と「言葉」が溶け合う日がやってくる。
発する言葉が未来を作る。自分自身の。周囲の人々の。
だから、使う言葉は十分「寝かした」上で、吟味に吟味を重ねて使わねばならない。
「言葉のわらしべ長者」となって、ネガティブワードをポジティブワードに変換する作業を、何度も何度に繰り返す。
藤井さんは、27年間毎日「五行日記」をつけている。
自分と向き合うことで、その日のストレスをリセット出来る。
日記でクールダウンさせることで、次への準備をしている。
出来事の記録は、未来の自分への贈り物だ。
五行だけなので、言葉を煮詰めていくので「ひと手間かかった言葉」は、とてもいとおしい。
愛用のボールペンで書くのだが、書き直しが出来ない緊張感が、
言葉選びに役立つ。テレビの前で「言い訳出来ない」伝え手としての訓練にもなる。
藤井さんは、スタジオで「この言葉は本当に届いているか」と、自らに問いかけながらアナウンスをしている。
大切にしていることは、「たくさんの人の立場から言葉を選ぶこと」
「誰かを批判することより、誰かを励ますこと」
見栄えのいい言葉だけが届くのではなく、
鋭い批判だけが力を持つのではなく、
相手を思い浮かべた言葉こそが届くと、藤井さんは信じている。
まったく同感だ。
本の最後を「否定的な言葉で希望を綴ることは出来ない」という
言葉で締めくくっている。
急に「言葉力」を身につけることは出来ないが、
日々、言葉に触れ、使うことで、自分を高められる。
それが、いつか、自分の存在以上の力を持って、
自分に戻ってくる。
「手元にある安易な言葉で自分を包まないように」しなければならない。「発する言葉で自分を作る意識が、今の時代だからこそ大切」だと、ぼくも同じ思いだ。
後輩ながら敬愛する同志を得た思いだ。