富山の大島絵本館で、毎年開催している「いのちの絵本」。
15回目の今回は、落語家の柳家花緑さんをゲストに迎えた。
花緑さんは、朗読のCDも出しているが、朗読のうまさには定評がある。絵本朗読は、当然のようにお願いした。
だがしかし、打ち合わせの時に、真顔でこう言われた。
「村上さん!ボクは落語家ですよ!落語をやらせてくださいよ!」
「え!いいんですか!」とボク。どういうわけか絵本朗読会で落語をお願いしていいものなのかという遠慮があったのだ。
そんなこんなで、落語を演じていただくことになった。
花緑さんが選んだのは、『文七元結』。
いのちがテーマということで、大切な金で命を救う人情噺。
左官の長兵衛。腕はいいが博打に凝り、家計は火の車。
博打の借金が五十両にもなり、年も越せないありさまだ。
十七になる娘のお久が身を売って金をこしらえ、おやじの博打狂いを止めさせたいと、吉原に自ら頼みこんだという。
娘の孝行心に対して、吉原の女将が五十両貸してくれた。
五十両を懐に吾妻橋に来かかった時、若い男が身投げしようとするのを見た長兵衛、抱きとめて事情を聞くと、男は鼈甲問屋近江屋の手代、文七。掛け取りに行き、受け取った五十両をすられ、申し訳なさの身投げだという。
「どうしても金がなければ死ぬよりない」と聞かないので、長兵衛は迷いに迷った挙げ句、これこれで娘が身売りした大事の金だが、命には変えられないと、断る文七に金包みを渡してしまう…。
会場では、落語なのに泣いて聞いている人もいた。
花緑さんは、自らの発達障害を公表している。
多動性障害に識字障害。
落ち着きがなく、勉強の出来なかった子ども時分のことが、
「発達障害」だとわかってスッキリしたという。
朗読する絵本も、花緑さんの体験談が話しやすいようなものを選んだ。
『教室はまちがうところだ』は、間違えることを恐れず手を挙げようと、元教師が書いた絵本。
『ぼくはなきました』は、自分のいいところがわからないと悩んでいると、みんなのいいところを見つけるのがいいところだと言われた子の話。
『だんごむしのおなら』は、多動性障害のように動き回る落ち着きのないタンポポの綿毛とダンゴムシのほのぼのとした交流を描いた絵本。
『ぜつぼうの濁点』は、絶望は希望に変わることを面白おかしく表現した絵本。落語的なところもあり、花緑さんの朗読にピッタリ。
『どんなかんじかなあ』は、目が見えない、耳が聴こえない障害者の気持ちになってみる体験絵本。パラリンピックの年にちなんで選んだ。
『みんなスーパーヒーロー』は、アメリカのカマラ・ハリス副大統領の自伝的絵本。周りにいるスーパーヒーローのことを思い返すうちに、自分が一番のスーパーヒーローだと気づく。
全体的に「自己肯定感を高める」絵本シリーズとなった。
自己肯定感は、かけがえのない命を大切にすることに繋がる。