「しかたない」は言うまい | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

食い入るように見た。一瞬たりとも見逃すまいと。

戦争だから仕方がなかったのか。

命令に従っただけだから許されるのか――。

太平洋戦争末期に、捕虜を生きたまま解剖したという事実があった。

それをもとにしたNHKドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』。タイトルが、作品全体のメッセージになっている。

 

主役の医師・鳥居太一を演じるのは妻夫木聡さん。

原案のノンフィクション『九州大学生体解剖事件 七〇年目の真実』を読みこみ、役作りをした。

1945年5月。太一は、教授の命令のもと、アメリカ兵捕虜の手術を手伝った。それは生きたまま解剖するという実験手術だった。

太一は、教授に中止を進言するが、教授は「医療の進歩」だと言い、却下された。結局、8人の捕虜が死亡した。

戦後、太一は首謀者とされ、絞首刑の判決を受け、凶行を止められなかった自分と向き合っていく。

太一は実際、首謀者ではなかった一方で、医師という立場でありながら、捕虜にも家族がいたのにもかかわらず、止められなかったことについて自責の念に押し潰される。

「悲惨な出来事も『仕方がない』で片付けてしまえば、過去のことになってしまう。一人ひとりが意識を持っていないと、日本がどんどん後ろ向きになる不安がある」と妻夫木さんは言う 。

 

太一の妻、房子を演じるのは蒼井優さん。

夫への公正な裁きを求めて奔走する。

一つの出来事に対して、登場人物それぞれの立場があり、蒼井はそれぞれに思いを寄せてほしいという。「みんな間違っているし、みんな間違っていないように見える。過ちさえも理解できてしまうことが戦争の怖さと思った」

「戦争がよくないことは、誰もがわかっていることなのに、自分が生きている間に戦争がなくなるのだろうかと、思うこともあります。結局、政治に興味をもって選挙にいくしか一個人としてはできない。作品を通して失いたくない『心』を届けられたら」と語る。

 

刑務所で太一が出会う元陸軍中将の死刑囚・岡島役は、中原丈雄さん。心穏やかに過ごせるよう、部屋を周りながら死刑囚たちとの対話を重ねている。彼は、部下の罪を背負う形で戦犯となった。自分が直接手をくだしていないのに、なぜ?と聞く太一に岡島は「何もしなかったという罪もあるんじゃないかな」と静かな口調で語る。

 

ドラマを見終わって思った。

「しかたがなかった」という言い訳は、今後口にするのはやめようと。