母の日が近い。
当然、父の日より、母の日の注目度は高い。
生んでもらった存在なのだから、男が逆立ちしても適うわけがない。先日もホスピス医の山崎章郎さんが、「最後に感謝したいのは母親という人が圧倒的。父親という人はほとんどいない」と言っていた。そういえば、特攻隊の兵士も、「おとうさーん」と言いながら飛び込んだ人は、まずいない。
各界で活躍する人たちも「おかあさん」がどんな人なのか、
取り上げるケースが多い。
いま注目の将棋棋士、藤井聡太六段。29連勝という金字塔を打ち立てたあとも、めざましい活躍を見せている。
あれよあれよという間に、六段に昇段した。羽生永世七冠を公式戦で破り、朝日杯で初優勝も成し遂げた。将棋の神に見出された天才棋士の母親は、どんな人なのか・・・。
母・藤井裕子さんは、彼がマスコミから追われる中、
日常を変えないよう、ふだん通りの生活が出来るようにだけ
気を配るふつうのお母さんだ。ステージママではない。
好きなことに集中するには、何が出来るか、いつも考えている。将棋に出会い没頭する姿を見て「何もかも好きにやらせよう」と思ったという。
息子は、幼いころから集中力が並外れていた。
4歳のとき、父が買ってきたスイス製の「キュポロ」に熱中した。
電車を1時間眺めていたこともある。プラレールも、部屋を跨いで線路作りに余念がなかった。
5歳のとき、祖母が持ってきた「スタディ将棋」に関心を抱き、 祖父相手に将棋をはじめたが、ほどなく相手にならず、
近所の将棋教室へ通い始めた。
詰将棋解いていて「考え過ぎて頭が割れそう」と言ったらしい。幼稚園児のセリフとも思えぬ。詰将棋の解答をノートに書くのは、もっぱら、お母さんの役割だった。
小4のとき、プロ棋士養成機関の奨励会に合格した。
月2回の対局日、大阪の将棋会館まで母が同行した。
対局中、母は将棋会館内のベンチで読書しながら待っていた。息子は、負けたら、口をきかない。6連敗したときは、大泣きをした。そんなとき、母は黙って静かに見守った。
息子のリクエストに応えて、対局日の朝はうどん、帰ればカレーライスを用意した。
将棋のこと考えていて、溝に落ちたことも1度ならずあったが、叱ったりたしなめたりしなかった。
中学に入ったら、母の同行を断り、一人で大阪へ向かった。
携帯を忘れて音信不通になったこともあったが、 「止まった駅名を全部覚えて言える」と平然として帰宅した。このときも、叱らなかった。
親の都合で、子どもを叱らず、子どもの好きなようにさせ、口を挟まない。裕子さんは、将棋のルールも知らない。
並外れた集中力が養われたのは、母の自由な教育の賜物のようだ。裕子さんは、我が息子ながら、将棋の神様からの預かり物だと思っているのかもしれない。