皇后さまと蚕 | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

今月1日、皇居で毎年恒例の「御養蚕始の儀」が行われた。

皇居の森の中で、養蚕が行われているのだ。

蚕を育て、繭から取れた糸は国賓への贈り物などに姿を変える。明治以降、歴代の皇后が受け継いできた伝統行事だ。

宮中には、こういう「伝統」がいくつもある。

1日付けの朝日新聞の記事をもとに紹介したい。

 

紅葉山御養蚕所。

木々に囲まれた皇居のほぼ中央にある小高い丘に、

古風な木造2階建ての建物がある。

1914(大正3)年に建てられた養蚕用の施設だ。

 

御養蚕所では3種類の蚕、12万~15万ほどを飼育している。100年以上前に確立した工程に倣い、空調設備や人工飼料などは使わない。皇后さまは蚕に桑の葉を与えたり、蚕が繭をつくるための器をわらで編んだり、ほぼ全ての作業を素手で行う。去年は合計19日間にわたって、160キロあまりの繭が収穫された。皇后さまは、多忙な日程の合間を縫って、御養蚕所に通われる。

皇居での養蚕は、昭憲皇太后が養蚕業奨励のために始めた。生糸は当時、重要な輸出品を占めていた。その後国内の養蚕業は著しく衰退し、養蚕農家の戸数は、昭和初期の約220万戸から2017年の338戸と激減した。高齢化と後継者不足に直面しているという。皇后さまが養蚕を続けているのは、日本の近代を支えた養蚕業を守り続けている人々への共感と、伝統をつなぐ者でありたいというお気持ちが強いからだろう。

来年4月末に天皇陛下が退位した後は、皇后さまも務めから退かれる。養蚕にいそしむのも、今年が最後になりそうだ。こうした伝統を受け継ぐのも、新しい皇室の務めだ。