武士道とは愛することと見つけたり | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

石川真理子さんから新作が送られてきた。

先日お会いしたとき「北条重時ラブ状態」だったので、

興味をそそられ、一気に読破した。

まさにいまの時代に活かせること満載の本だ。

 
北条重時は、鎌倉幕府二代執権・義時の子。
17年の長きに渡り、京都・六波羅探題で京都の治安維持に尽力した。50歳で鎌倉に戻った重時は、五代執権・時頼の補佐を務めた。
細やかな配慮で、名もなき民を慈しむ政治を行った。
 
『極楽寺殿御消息』その家訓は、微に入り細を穿つものだ。
例えば・・・
●「先輩は親のように思い、後輩は弟のように思え」
 若い者を見下さず、敬意を持って接するようにと諭している。
 部下が自分を敬う以上に、部下を尊敬する。
 敬意を払わないものに対しては、むしろ一層敬うようにする。
●「宴会料理は取り忘れたふりして、他の人に多くをとらせよ」
●「同僚の中で差し出がましいような派手な衣装は控えよ」
 そういう行為が見る目のある人の目に留まる。
●「不満な心のうちを人に見せてはならない」
 不満顔は事態を好転させない。
 人を不快にさせたら自分に返ってくる。 
 人の心が満たされるような配慮をすれば、
 天がそれに相応しいものを与えてくれる。
●「いきなり家に帰らず、事前連絡せよ」
●「女子が集っているところは、見て見ぬふりをせよ」
 女性の機嫌を損なわない思慮。
●「宴席には器量のよくないものを選べ」
 美女に心を惑わされることもないし、呼ばれた女性も喜ぶ。
●「非道理の中に道理あり、道理の中に非道理あり」
 道理を絶対的なものと思うと、人を傷つけてしまうことがある。
●「水に流す美徳を忘れるな」
 恩を石に刻み、仇は水に流す。
 許されて生かされているのに、どうして許せないのか。
●「虫や小動物をむやみに殺生してはならない」
●「百姓が育てた農作物をやたらと搾取してはならない」
 弱きを助け強きを挫く。
 相手によって態度を変えてはならないという家訓もある。
●「ものごとをやかましく論議するな」
 勇気あるものは常に穏やかだ。平静こそ勇気。
 自分が間違っていなければ、言わせておけばいい。
●「嘆き悲しまない。運命を受け入れよ」
 生に執着せず、死に親しむ。
 食事をするがごとき、悲しいことも飲み込んで消化してしまう。
 栄養となり、人間的成長をもたらす。
 不易流行。悲しみも、いずれ流れゆく。
 
家訓を読んでいると、まさに「愛」に満ち溢れた人だと思う。
なにげないことの積み重ねが底力となり、
難局を切り開いていくことに繋がる。
瞬時の判断力を磨くことになる。
石川さんは、あとがきで、「重時は、ただ生真面目なだけでなく、
天の意のままに、己の信念を貫くことの出来た人」と書いている。
そして、「武士道の根底にあるのは、あらゆる命を慈しむ愛」だとも
書いている。
特別な存在でない、平々凡々と生きている、いわゆる「その他大勢」が、実は極めて重要な社会の担い手だと、重時はわかっていたのだろう。右を向いても左を向いても「自分ファースト」だらけの今、重時は、忘れてはならないことを教えてくれている。