御年92歳の越川禮子さんは、
この日(18日)、ことのほか上機嫌であった。
5日前に、心臓のカテーテル手術をしたばかりとは思えない。
肌艶もよく、声にもいちだんと張りがある。
江戸しぐさで一躍その名が知られるようになった越川さんだが、
キャリアウーマンの先駆けとして、
40歳で起業し、会社経営に携わった。
女性スタッフだけで市場調査や商品企画を手掛けた。
60歳のとき、アメリカの老人問題について書いた
「グレイパンサー」が話題作となった。
19歳で結婚し、3人の子も育てあげた。
65歳のとき、江戸しぐさに出会い、以来その普及に努めてきた。
その越川さんのことばには含蓄がある。
その宝のようなことばを聞きだし、
記録ビデオにしようという企画に協力させていただくことになり、
その1回目の収録をしたのだ。
この日、上機嫌だったのには、わけがある。
小学校4年生の女の子から、「江戸しぐさ」についてまとめた
手書きのリポートが、ちょうど届いたばかりだったのだ。
イラストを使い、家族で「江戸しぐさ」を実体験した写真を使い、
とてもわかりやすいものだ。
彼女は、「江戸しぐさは、江戸のまちにくらす人々が共に仲よく生きていくための知恵であり、心づかいであり、しょうらいを考えたマナーである」と、きちんと位置付けている。
そして、
「江戸時代に行きたくなりました。なぜなら、江戸時代の人は、思いやりがあり、子どもたちも家のお手伝いをたくさんしていて、すごいなと思ったからです。時代がちがう今でも、役に立つしぐさがたくさんあった。私は、これからたくさんの江戸しぐさをまねしたいし、たくさんの人にひろめたいと思いました。そして、江戸時代のように、みんなが思いやり助け合う社会にしていきたいです」とまとめている。
この文章を読むだけでも、越川さんが喜ぶのは、よくわかる。
この日の話は、江戸しぐさを、これからの日本を背負っていく子どもたちにいかに伝承していくかで、盛り上がった。
92年間、紆余曲折、毀誉褒貶いろいろあったが、
どんなことも、ポジティブにとらえる。
「私って、ツイてるのよ」と、カラカラと笑った。
心臓手術にしても、この日届いたリポートにしても、
ツイている証拠だ。