劇場が笑いで揺れる | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

いやはや、笑った。笑った。笑いっぱなしだった。

新橋演舞場全体が、笑いの渦に包まれ、

劇場が揺れているようだった。

上演中の『江戸は燃えているか』を観劇してきた。

 

時は慶応四年。
鳥羽伏見の戦いで幕府軍に勝利した

西郷吉之助(藤本隆宏)率いる官軍は、

江戸城総攻撃のために、東海道を進んできていた。
西郷としては、

無駄に血を流さずに、江戸城を受け渡してもらえるなら、

こんなに嬉しいことはない。

そこで幕府側の代表である勝海舟(中村獅童)と会って、

降伏を勧めることにする。
だが、勝という男は、元来の江戸っ子気質で、

気が小さい上に喧嘩っぱやい。
こんな性格の勝が西郷に会ったら、間違いなく交渉決裂。

江戸は火の海になるのは目に見えていた。

江戸の庶民たちも、誰もが戦さは望んでいない。

そこで、立ち上がったのが勝家の使用人たちだ。
彼らが考えた作戦は、

勝家の庭師の平次(松岡昌宏)に勝のフリをさせ、

本物の西郷に会わせて、和平交渉をしてしまおうという、大胆なもの。 

公演の導きをしてくれた藤本隆宏さんも、コメディ初挑戦。

これまで二枚目が多かったが、今回は三枚目を演じていた。

西郷さんと、勝家の用人の二役。用人のデクは、

ちょっと回線がずれている。

重厚な西郷の声と一転し、甲高い声をあげながら、

ぴょんぴょん飛び跳ねている。

藤本さんの芸域が広がるチャンスだと思った。

 

脚本・演出の三谷幸喜さんの巧みな笑いのツボが

随所に仕掛けられている。

基本は、笑いの定番の「勘違い」「すれ違い」。

さらに、アドリブで出演者が互いにツッコミを入れて起こる笑い。

この日も、獅童さんのアドリブで、舞台の演者も客席も3分間くらい、

笑いが止まらないときがあった。

三谷さんの理想は、「10秒に1回」笑わせること。

10秒に1回どころか、笑いが止まらない。

1400人が一度に笑う迫力はすごい。

理屈抜きに楽しいことしかない芝居。

よく笑った高揚感を抱いて帰路につけば、

浮き世の憂さを、少しは和らげることが出来る。

人間は幸せだから笑うのでなく、笑うから幸せになるのだから。

 
『江戸は燃えているか』は、26日まで、新橋演舞場で。