大坂天満の呉服商、五鈴屋の六代目店主の女房となった幸。
三兄弟に嫁す、という数奇な運命を受け容れた彼女に、
お家さんの富久は五鈴屋の将来を託して息を引き取った。
「女名前禁止」の掟のある大坂で、幸は、夫・智蔵の理解のもと、
奉公人らと心をひとつにして商いを広げていく。
「買うての幸い、売っての幸せ」。
買い手も売り手も幸せにするため幸は知恵を絞る。
そんな幸に、幸という名前なのに、
作者の高田郁さんは不幸をもたらせすぎ。人を死なせすぎ。
第1巻早々で、優しい兄の雅由があっけなく死んだ。
あいついで父も死に、幸は大坂に奉公に出る。
嫁いだ四代目徳兵衛が放蕩の果て死ぬ。
幸を見込んで嫁にしたお家はんの富久も、
五鈴屋の将来を案じながら亡くなる。
最新刊の第五巻では、働き詰めだった母の房が亡くなる。
生まれ変わりと期待されていた幸のお腹の子も死産。
これはないでしょーと、読みながら、高田さんにブーイング。
そして、ラストでは、六代目徳兵衛が倒れる。
まさか、まさかと気がかりだが、この先次巻は、1年待たされそう。
それはないでしょーと、またブーイング。
文章の巧みさに、今回も舌を巻いた。
「境内で鳴らされる太鼓の音が、
会話の消えた室内を優しく埋めている」
「熟した実梅の芳香の溶け込んだ弱い雨が、天満の街を覆っていた」
「座敷に滞っていた残暑の熱気を、極楽の余り風が払っていく」
「(大川に)小さな波が生まれて、月の光を砕いて川面に撒いた」
ますます、時代小説の筆をとる気力を萎えさせる。もうっ!
人生の処世訓も散りばめられている。
女衆のお竹のことば「古手を解いたら、縫い手の心が見えますのや。
心ないものは心ない仕立てをするもんだす。たとえ見えるとこ、目立つとこは綺麗に繕うてあっても、解いてみたら、一遍にわかります」
亡くなった兄・雅由のことば「疾風知勁草~疾風に勁草を知る。陽だまりに群れているときは、どの草も同じに見える。激しい風に晒されて初めて、強い草が見分けられる。艱難辛苦に遭って初めて、その人の意思の強さ、志の高さがわかる」
だから、あえて疾風を吹かせるのか。艱難辛苦を与えるのか。
高田郁さん、一体全体、あなたはどういう人なの~!?