金子兜太さん他界 | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

ボクの宝物のハガキ。

俳人、金子兜太さんからいただいたハガキ。

平成23年10月2日の消印。奇しくも、俳句好きの父の命日だ。

「NHKといわず小生の接したかぎりの放送人のなかで、貴台の独特さが印象に残りました」とは、なんと嬉しい褒め言葉だろう。

金子さんを取材したノンフィクション作家の梯久美子さんと自宅を訪問したいという手紙に対する返信だ。結局訪問は叶わなかったが、このハガキが宝物となった。いつも目につくところに掲示してある。
 
「どうも死ぬ気がしない」と言っていた金子兜太さんが、
20日、亡くなった。享年98。
金子さんは、「いのちは死なない。他界に移るだけ」と著書で述べていた。「いのちに始まりも終わりもない。いのちは生まれる前から続いていたし、死んだあともずっと続いていく」とも。
誕生も 死も区切りではない ジュゴン泳ぐ
ジュゴンのように悠々と、あの世へ泳いでいきたいと詠んでいる。
兜を締め、野太く生きた金子兜太さん、
悠然と他界へ移り住んだことだろう。
 
金子さんと対談したとき、判明したことがあった。
僕の父が、毎年、正月元日になると「元日や 餅で押し出す 去年糞」と言っていたのが、子ども心に忘れられないと告げたら、それは金子さんのお父さんの句であることがわかったのだ。田舎の開業医だった金子さんの父は、とにかく「放屁」が好きで、のべつまくなしだったそうだ。
特に父に勧められたのは「野糞」。金子さんの父は、人里離れた山の上まで、よく往診をしていた。村人は、お礼に芋やトウモロコシを焼いてくれた。散々喰って帰る途中で、決まって「野糞」をした。「月を眺めながらやるのが、なんともいえねえ」「これくらい悠々としてなけりゃ、男はだめだ」と偉そうに説教していた。大地とつながる生き物感覚だったと、金子さんは言う。

生き物感覚があると、物に即することが出来る。

自分の利益優先で、相手を改造してしまおうという「対物姿勢」では、生き物感覚は感じられない。

古来もっていた自然への畏敬を忘れ、欧米的な対物思想に支配されてはいけない。

人間も地球も生き物。この世界は、様々な生き物が寄り集まって出来ている。地球も生き物ということを忘れると、今回のようなことになってしまうと、東日本大震災以降、五七五を通して、警鐘を鳴らし続けた。合掌。