永さんには、2人の娘がいる。
長女が千絵さん。父から受け継いだ映画評論の仕事をしている。
次女が麻理さん。元フジテレビアナウンサー。
父譲りの話すことを生業とした。
千絵さんは、ラジオビタミンのレギュラー出演者。
「オススメ映画」の話をしてもらっていた。
永さんからは、「娘を人質にとられました。よろしくお願いします」という
お便りをいただいた。
永千絵さんが、父の介護の様子を、娘の立場で書いた。
この本に出てくる永さんは、みんなが知っている六輔さんでなく、
千絵さんの父・孝雄さんだ。
本音で書かれた文章を読んでいると、クスリとしたりホロリとしたり。
特に、永さんの臨終のとき、父の死を受け入れがたい思い、
時間が経過した今も父に会いたい思いが綴られた巻末では、
涙を禁じえなかった。
お別れの会で、大勢の人に惜しまれる父を見て、千絵さんは、
「私だけの父ではなかった」と不思議な感情に包まれる。
小学生の頃、父と手を繋いで歩いていたら、
見知らぬ人に指をさされて大笑いされたことがある。
あまりにも、親子そっくりな顔をしていたから。
初めて化粧したとき、鏡に映る自分は、女装した父のようだった。
似ていることが嫌だった時期もあった。
でも、いまは違う。似ていることが嬉しい。
祖父や母が死んだあと、街で見かけた経験を持つ千絵さんは、
父にも会うような気がしている。
そのとき、「なんでこいつは自分にそっくりなんだ!」と
ぎょっとしてくれたら面白いと期待している。
本を読んでいると、親子の濃密な時間を一緒に過ごさせてもらっているような気持ちになる。何気ないことで笑ったり、気遣いあったり。
安心したり、後悔したり。自分が幼いころ、ほとんど家にいなかった父と、じっくり過ごすことが出来ることは、娘の喜びであった。
「父の介護はほんとうに楽しかった」というのは偽らざる気持ちだろう。
介護だけではない。
「お父さんの子に生まれて本当に楽しかった!」
千絵さんは、斎場で目を開かない父に、最期にそう呼びかけた。
千絵さんは、
こんなにも自分が父のことが好きだったと、改めて気づかされた。