火の打ちどころがない!? | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

江戸時代、万治二(1659)年から続く

宗家花火「鍵屋」一五代目の天野安喜子さんと対談してきた。

安喜子という名前の由来を聞いてみた。

「たぶん、安心して喜んで花火を見てもらうように…ってことじゃないですか」と笑窪を際立たせながら言う。            

生まれも育ちも江戸川区。

人の世話を焼くのが大好きな人に囲まれて育ったせいか、

こざっぱりした性格だ。

白か黒かしかない世界が好きだ。

迷いがなく決断も早い。

とっさの判断が求められる花火師に向いている。

 

天野家では、父が絶対的存在だ。             

「どうだ?」は「やれ」と同義語だ。

柔道一直線だったので、スカートを履かせてもらえなかった。

大学生になっても、門限は午後5時だった。     

夕食は、家族全員でとるのが決まりだった。

すべてがあたりまえと思い、反抗したことは一度もなかった。

母がことあるごとに「パパは素晴らしい」と言っていた。

夫婦喧嘩も見たことがない。

父が大好きだった。3姉妹の中でいちばん波長が合った。

花火師としての父に憧れ、小学校2年生の時、

後継ぎ宣言をした。

                                                     

天野家では、柔道も祖父の代からのお家芸。

自宅には柔道場がある。

大学卒業までは柔道中心の生活だった。

全日本の強化選手にも選ばれた。

あの山口香さんにも勝ったことがある。

選手引退後は、父の勧めで審判になった。

今年の全日本選手権で、女性として初めて審判を務めた。

70年の歴史がある全日本選手権は、

男子のみが階級に関係のない無差別で真の日本一を競う大会だ。

五輪など国際大会では審判の経験済みだったが、

柔道界に、またひとつ風穴を開けた。

 

花火師には、「間」が大切だ。

観客に感動を与えるのは、一瞬の「間」。

観客の空気を読み、自分の感覚を信じて、

その「時」を待っていると、

花火の「いまよ!」という声が聞こえる。

その一瞬をとらえ、合図の手を振りおろす。

コンピュター制御でなく手動にこだわる

たった一度、一瞬のために精魂こめようと思う。

花火は火が点けば、人の手を離れ、神が宿る。

 

何を聞いても完璧な答え。

家庭円満。人生順風満帆。

花火の打ち上げ現場でも、柔道場でも、一分の隙も見せない。

まるで非の打ちどころがないのだ。

火の打ちどころがあっては、いけない仕事だとはいえ。