俳優、日下武史さんが、先日亡くなった。享年86。
5月15日、静養先のスペインの病院で、誤嚥性肺炎のため死去した。
劇団四季の創立メンバーで、看板俳優として活躍した。
「ヴェニスの商人」「エクウス」「ハムレット」「鹿鳴館」などが代表作。
重厚な役作り、落ち着きのある知的な演技で知られ、
「南極物語」「まあだだよ」などの映画や、
「新・平家物語」「鬼平犯科帳」などのテレビドラマでも活躍した。
聞き取りやすい正確な日本語の発声力で一目置かれ、
外国映画の吹き替えでも親しまれた。
『アンタッチャブル』のエリオット・ネスなどが当たり役。
2014に東京・自由劇場の『思い出を売る男』が最後の舞台だった。
日下さんにインタビューしたのは、13年前のことになる。
代表作の一つ「エクウス」上演中のことだった。
日下さん演じる精神科医マーチン・ダイーサートは、
初演から300回以上演じてきた当たり役。
役者としてもターニングポイントになった役だ。
それまでは熱演型だったが、
力みが強いと役が見えてこないと気づき、
役者は透明になって観客の想像に委ねようと思った。
だが、経験や年齢を重ねたことが演技に反映されるかと思いきや、
「目標がどんどん遠ざかる気がする。若いころはがむしゃらでよかったが、今は知ってしまったことに苦しめられる。芝居を終えた後は、解放感に浸るより、出来なかったことを反すうする」
「努力や修練が、チラリとでも見えたら失敗だ」と自分に厳しい。
いくつになっても、演技に満足せず、努力と修練を怠らない。
だが、そのことを感じさせないように、
舞台上で「日下武史」を消し去る。役になりきる。
朗々としたせりふ、存在感のある身のこなし、
「いぶし銀」などと使い古された例えは使いたくないのだが、
でも「いぶし銀」にほかならない。
「いぶし銀」とは、くすんで渋みのある銀色を指す。
銀製品は手入れをしないと黒ずんでくるが、
銀製品は手入れをしないと黒ずんでくるが、
常に手入れをしていると渋みのある銀色になる。
役者としての手入れを終生続けた名優が旅立った。合掌。