緩から急へ~空也十番勝負始まる | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

大好評の『居眠り盤音江戸双紙』シリーズの続編という位置づけだが、

これは、これで独自の読み物として成立する。

仮に盤音を読んでいなくてもついていける。

 

直心影流の達人坂崎磐音の嫡子・空也は、

門外不出の東郷示現流を学ぶため、薩摩へと旅立つ。

そこに待ち受けるのは国境を支配する無法集団・外城衆徒。

空也は薩摩入りするために、名も刀も捨て、己に無言の行を課して精霊が住む山中を歩き、国境を目指す。

磐音シリーズは、「春先の縁側で居眠り猫が日向ぼっこ」…と、どちらかといえば『緩』。

空也シリーズは、精霊のいる山中で姿を現さぬ相手と神経戦を繰り広げたり、

あげく滝壺に落ちて瀕死の重傷を負い、奇跡的に助かるなど、どちらかといえば『急』。

スペクタクル映画を見ているような気がした。

空也は、命を助けてもらった眉姫と薩摩で恋に落ちるのだが、

若い2人の恋も、父・盤音に比べて情熱的に描かれているように思う。

 

タイトルの『声なき蝉』も、実にうまくつけられている。

地上に出るまで地中で暮らす蝉に、若き修行者・空也をなぞらえ、

2年間、声を出さない誓いを立てたことも含ませている。

 

父をしのぐ剣士になる予感を抱かせる新シリーズの始まり。

十番勝負とは、10巻までなのだろうか・・・。

佐伯さん!空也の成長をゆっくり楽しませて!