大好評の『居眠り盤音江戸双紙』シリーズの続編という位置づけだが、
これは、これで独自の読み物として成立する。
仮に盤音を読んでいなくてもついていける。
直心影流の達人坂崎磐音の嫡子・空也は、
門外不出の東郷示現流を学ぶため、薩摩へと旅立つ。
そこに待ち受けるのは国境を支配する無法集団・外城衆徒。
空也は薩摩入りするために、名も刀も捨て、己に無言の行を課して精霊が住む山中を歩き、国境を目指す。
磐音シリーズは、「春先の縁側で居眠り猫が日向ぼっこ」…と、どちらかといえば『緩』。
空也シリーズは、精霊のいる山中で姿を現さぬ相手と神経戦を繰り広げたり、
あげく滝壺に落ちて瀕死の重傷を負い、奇跡的に助かるなど、どちらかといえば『急』。
スペクタクル映画を見ているような気がした。
空也は、命を助けてもらった眉姫と薩摩で恋に落ちるのだが、
若い2人の恋も、父・盤音に比べて情熱的に描かれているように思う。
タイトルの『声なき蝉』も、実にうまくつけられている。
地上に出るまで地中で暮らす蝉に、若き修行者・空也をなぞらえ、
2年間、声を出さない誓いを立てたことも含ませている。
父をしのぐ剣士になる予感を抱かせる新シリーズの始まり。
十番勝負とは、10巻までなのだろうか・・・。
佐伯さん!空也の成長をゆっくり楽しませて!