この世界の片隅に | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

芯の強さ、真の強さとは、どんな時であろうとも、丁寧に優しく柔らかく生きること。そのことを改めて教えてもらった気がした。

大ヒット中のアニメ映画「この世界の片隅に」。戦時下の広島を生きた平凡な女性すずの生活が、日記のように綴られている。野草を摘み献立の工夫をし、着物をもんぺに縫い直し、大好きな絵も描く。一方で、機銃掃射され、焼夷弾が落ちてくる。戦時下の生活は、別次元の非日常ではなく、日常と非日常は隣り合わせだった。映画では、声高に戦争の悲惨さを訴えるわけではない。淡々とした日常を丁寧に描くことで、それを奪い去る戦争の理不尽さが、心に沁み渡る。

映画の成功の大きな要因は、主人公すずの声優を務めたのん(本名・能年玲奈)にあると思う。すずが生きた時代や空気感を体に染み込ませ、一人の生身の女性を演じきった。「私もつらいときは、すずさんみたいにワーッと泣くけれど、すぐ忘れる。ポジティブなところは似てるかも」という。その明るい声が、かえってせつなさを際立たせる。「広島弁」と「呉弁」の微妙な使い分けが、物語でも重要な意味を持つ。

『この世界の片隅に』は、SNSなどの口コミで広まり、上映映画館も増え続けている。もう決して片隅にはおいていられない。