テレビ草創期の、混沌とはしているが、勢いのある現場がよく出ていた。
『トットてれび』は、NHK専属となった黒柳徹子さんが出会う、
キラ星のごとくの個性的な人々との関わりが描かれていた。
まずは、黒柳徹子役の満島ひかりさん。
話し口調もしぐさも、よくここまでと思うほど、そっくりだった。
渥美清役の中村獅童さん、向田邦子役のミムラさん、
森繁久彌役の吉田鋼太郎さん、みんな本人と見まがうばかりだった。
中華料理店の王さんの松重豊さんも、「まんま」だった。
草創期、羅針盤のない中、みんなが暗中模索していた。
小難しいことはいらなかった。
楽しいことがいちばんだった。
そして、周りのことに気を配りながら、生きていた。
ボクが、NHKに入った昭和52年当時も、まだそんな気風が残っていた。
新人アナウンサーに3時間のナマ放送のDJをやらせる度量があった。
義経一行が雨が上がるのを待っていたら、晴れてきたという「雨晴海岸」で、
雨の日に出かけ、雨が晴れるのを待つだけという番組提案が通った。
イワシの大群を追いかけフクラギ(ブリになる前の魚)が
大量に海岸に押し寄せると聞きつけ、
現場で数日待ったが、不首尾に終わった。
番組のオープニングタイトルは『フクラギは来るか』。
エンドタイトルは『フクラギは来なかった』。
こんなふざけたタイトルが、まかり通った。
大声で怒りを言い合うこともあったが、後に尾は引かなかった。
よく2次会、3次会まで飲みに行った。そこで発散しストレスはたまらなかった。
喫茶店は、アイデアを生み出す場だった。
整然とした場より、混沌とした場には、活気があった。笑い声もあった。
そんな新人時代を思い出しながら、『トットてれび』を見ていた。
黒柳徹子さんのお父さんのことばが印象に残る。
「どんな人間にも、飛び抜けた才能があるんだよ」
人の中に眠る才能は、混沌の中で見つかるような気がする。