司馬遼太郎に日本人を学ぶ | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

タイトルに惹かれて購入した。

新書にしては分厚い335ページ。

内容の濃い本本だった。

単に司馬文学の案内書ではなく、日本の近世現代史を俯瞰出来る。

著者の森史朗さんは、司馬さんの担当編集者だった。

その傍らにいられたという幸福感も、文章の随所に表れているし、

司馬遼太郎という不世出の作家に対する畏敬も満ち溢れている。


森さんは、初めて読む作品に『燃えよ剣』を推す。

実は、司馬さん自身も、ベストワンに選んでいたという。

司馬さん、39歳の作品。

若い情熱に駆られ、自由に想像の翼を広げ、

自分の小説世界を楽しんだ自信作なのだろう。

この作品で、土方歳三にスポットがあてられた。


『燃えよ剣』と同時進行で書いていたのが『竜馬がゆく』。

「余談ながら・・・」「ついでながら・・・」「さらに余談ながら・・・」

途中で、作者が感想を述べる独特の文体が登場する。


司馬さんの筆で、

坂本龍馬、吉田松陰、高杉晋作、西郷隆盛、徳川慶喜・・・

維新史を彩る人物たちが活写されていく。

あらすじ、読みどころ、制作エピソードなど、

編集者でないと知りえないことが、読者のマインドをつかむ。


司馬さんは、大作『坂の上の雲』で、日本人論を展開した。

この国のなりたち、行く末について、読者に投げかけた。

「兵隊が威張らない社会、福祉が行き届いた社会、

 誰でもその社会に参加したいと外国人が思う社会を理想とした」

しかし、『坂の上の雲』で描かれた日露戦争の勝利が、

日本人を調子狂いにしたと、断じる。

司馬さんは、次に太平洋戦争をテーマに書こうとしていた。

ノモンハン事件、真珠湾攻撃・・・主人公になりうる佳き人物も見つけていたが、

諸般の事情で断念した。

ありえない装備、ありえない作戦指示、ありえない人命軽視で、

日本は、坂道をころげ落ちていった。

だから、二度と過ちを繰り返してはならないという強い思いが、

晩年の司馬さんを支えた。

すぐれぬ体調をおして、必死の思いが伝わってくる。

その思いのバトンを受け継ぐためにも、ぜひ司馬作品に読み耽ってほしい。