「東京では言いたいことが言えない」
「だが、大阪では自由に言える」
ジャーナリストの堤未果さんは言う。
放送や新聞では、言論の自主規制をする傾向が強まっている。
堤さんは、出演が決まっていた番組で、
当日の深夜になって、ドタキャンされたことがあるという。
大阪の隆祥館書店の「作家さんとの集い」は、数えて128回目。
作家と読者が直接触れ合う機会を作り、
本を読む人を増やしたい思いで開いている。
店主の二村知子さんは、小柄でスリムな身体で、本当に頑張っている。
隆祥館書店は、昭和27年創業以来、「町の本屋さん」として存在してきた。
知子さんは、創業者である父の二村善明さんの長女として生まれ、
実家が書店であることを誇りに育ってきた。
そして20年前から、店の看板娘として、
書店業界を守るため、必死になってきた。
本を売ることだけを目的にはしていない。
純粋に、「本屋という町の文化を残したい」と奔走してきた。
いまでは、作家や出版業界では、つとに知られた存在で、
作家さんとの集いに呼んでほしいと、逆オファーもあるそうだ。
今回は、二村さんからの電話で実現した。
文化放送に堤さんが出演したことを聞きつけ、
ぜひ、お呼びしたいから橋渡しをしてほしいと依頼があったのだ。
ボクは、一つだけ条件をつけた。「ボクも一緒に呼んでください」と。
あとは、とんとん拍子に決まった。
会場は満席。一言も聞き逃すまいと、熱気ムンムン。
大阪には、江戸の昔から「お上など、なにするものぞ」の気概がある。
だから、委縮などしない。自粛などしない。
「言いたいこと言い」の集まりなのである。
TPP問題を中心に鋭い質問が次々飛び出した。
堤さんは、どの質問にも見事に応対する。淀みがない。
アメリカでは、多様な報道、多様な教育が出来なくなっている。
日本にも、波及してきている。
アルバイトを雇いSNSに大量書き込みをさせ、
世論操作するようなことも現実に行われているという。
「どんなに、意見が言いにくい現状であろうと、
声を出すことを諦めてはいけない」と堤さんは言う。
「だから大阪の人に頑張ってもらいたいんです」と背中を押され、
会場の人たちは、我が意を得たりの表情だった。
何より、曲がったことの嫌いな二村さんが、いちばん満足気だった。
その二村知子さん、今週号のAERAの「現代の肖像」に出ている。